紅白の獣
□四聖獣1
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「どーも、駿河都こと白鷺です」
「緊張感がないのう」
「緊張したところで得られるものなんてありませんからねえ」
「…まあなあ…」
大きな机に小さい体で、赤いセーラー服の余裕しゃくしゃくな彼女に頭をかかえているのは霊界の統治者、コエンマ。
「コエンマ様、この子どうしたって何も言わないんですよー」
ぼたんが困り果てた顔で助けを求める。
霊界の3大秘宝の盗難事件にあたって、とりあえず関係者らしき男女3名を拘束したはいいがこの白鷺という少女を取り調べしていたぼたんが音を上げたらしい。
蔵馬は少しばかり事件解決の手伝いをしてもらったりしたのでまだましだが、飛影はその事件の当事者。白鷺は一足先に捕まって、その間ぼたんにいろいろと質問されていたが、全くもって情報を話してくれないのでこのような状態になったわけだ。
「何も言わないんじゃなくて言うことがないんですよ。みんな知られちゃってることばっかりだしねえ」
「あのなあ…」
その時、バタンとドアが開いて、残り二人の容疑者も入ってきた。
「おー、蔵ちゃん!」
「あのね、ここははしゃぐところじゃない」
「はしゃいでなんかいないよー」
妖気をおさえる手かせをはめられた状態で入場してきた男たちを見て気軽に声をかける白鷺を諌める蔵馬。その横で、
「うるさい、女」
「まあ間違っちゃいないけどね、そんなに殺気飛ばさなくてもいいでしょ」
飛影がぶすっと構えている。さらりと聞き流す白鷺だが、その目に好奇心が宿っているのを蔵馬は見抜いていた。
(何するつもりだ?)
彼をなだめるのに相当時間がかかったんだけどなあ…と片眉を上げる。
「コエンマ様〜、もう私たちじゃどーしようもないんですよー」
「ジョルジュ、お前までさわぐな」
「えー、ひどい」
傷だらけの青鬼がくねくねして言っている。どうやら蔵馬と飛影を一人で尋問していたところ、飛影の反撃にあってしまったようだ。当人は全く知ったこっちゃないというツラだが。
「そーいえば君、なんて名前?幽助と蔵馬は知ってるけど、君は知らないんだよね」
(白鷺…お前ってやつは。飛影の名前、ちゃんと教えたろ)
飛影の怒りをあおって面白がっている…オレと似ているから、よく考えていることが分かる。
事情のわかっている蔵馬が渋い顔をしている中、白鷺の笑顔が輝く。
「君なんぞと変な呼び名で呼ぶな」
「んー、なら教えてよ」
「…飛影」
「かっこいいねえ。あだ名つけるならひいくんとか?ひいちゃんとか?ひえぴっぴとか??」
「貴様あ!!!!」
「よーし決めた!ひえぴっぴだ!!」
「白鷺」
「ん?」
「ん?じゃない。ジョルジュが…あの青鬼が死にかけてるよ」
蔵馬がくいっと顎で飛影を示す。そこでは、剣を抜こうともがく飛影を必死で抑え込むジョルジュの哀れな姿があった。
「おお、頑張れー」
「頑張れじゃないじゃろう…誰のせいでこうなったんじゃ」
「さあ、誰でしょうねえ」
「白鷺…飛影、意外とこういうの敏感だから加減間違えないで」
「ん、了解」
やるなとは言わない蔵馬と軽く目配せをして、
「ひえぴっぴー、そんなに怒らないでよー!」
「〜!!殺す!!」
一気に激しくなった青いのと黒いのの攻防に、ピンクのセーラーは大笑い、学ランのほうは面白がった苦笑い。
コエンマがはあと息をついた。このままではワシの部屋が崩壊するのも時間の問題だ。手かせだけでは心もとなさすぎる…。
「わかったわかった!お前ら3人とも無罪にしてやる!!」
「?!」
「…?」
「…」
上から飛影、白鷺、蔵馬。何とも分かりやすい。
「しかし、条件がある。今から、四聖獣を倒す幽助たちに合流してこい!」
「それで晴れて自由の身ですか?」
「もうこのさいワシの一存だ!」
「どーしてまた」
白鷺が首をかしげる。
「あいつだけじゃ心もとなさすぎるんじゃ」
「あいつ…とはどちらのことですか」
「うっ…ゆ、幽助のことに決まってるだろう!」
蔵馬にすっと突っ込まれ、あからさまに動揺するコエンマに
「あ、そうですかー」
白鷺がくすりと笑った。蔵馬は静かに言った。
「わかりました。オレは行きましょう…飛影も当然行くよね?」
「ちっ」
飛影が顔をゆがめるのを見ながら、蔵馬は予防線を張ろうとした。
「でも白鷺はだめ…」
「了解しました。私も付いていきます」
しかし白鷺がそれを遮って言いきった。蔵馬が即座に切り込む。
「白鷺。君は戦ってはいけない。その体質では自殺行為だ」
「いいの」
「白鷺!」
蔵馬の表情が険しくなる。そんななか、遠慮がちにコエンマが白鷺に問うた。
「…体質?」
「あ、コエンマさん知らなかったんですか…私、人間界に来てから、血が固まらない体質になっちゃったんですよー。こっちじゃ血友病とか言うらしいですけど」
コエンマがしまったという顔をする。当然だ、そんな奴を四聖獣にあたらせたら、どうなるかわかったものじゃない。
「…前言撤回じゃ!白鷺には適用せん!!」
丸い顔に冷や汗をかいて言い募るコエンマを、白鷺は不服そうに見る。
「コエンマさん、私はこれでも妖怪ですよ。血は確かに固まりませんが、血管の再生能力は普通の人間よりましです。それに蔵ちゃん。あの刀傷…隠してはいるけど、まだ全然本調子じゃないんじゃないの」
「…」
悔しいが何も言い返せない。事実だ。降魔の剣は特有の邪気を放っている。直接体を貫いたダメージは、半妖の蔵馬であっても軽いものではない。
「悪いけど、そんな蔵ちゃんほっとけないし。ひーたん面白いから、もっと話したいしねー」
「ひい…たん?!」
「飛影…ちょっとは我慢して。白鷺もね」
「黙れ」
「えー、折角楽しいのになあ…で、いいですよね、コエンマさん」
「あ、ああ…わかったわい…」
そんな光景を目にして、はあと特大のため息をつくコエンマを思わず憐れむぼたんだった。