紅白の獣
□暗黒鏡2
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「あ…」
目を醒ましたのは蔵馬だった。
「い、生きてる…?」
両手を広げてまじまじと見る。透けてはいないし感覚もある。ちゃんと命が残っている証拠だ。
「…白鷺?!」
我に返って白鷺の姿を探した。彼女は少し離れたところに転がっていた。駆け寄る。
「…こいつも生きてはいるな」
ほっと息をついた。単に気を失っているだけのようだ。
「…痛っ…」
「白鷺」
白鷺がうっすらと目を開けた。しかし仰向けのまま動かないところをみると、ダメージは大きいようだ。動かないのではなく動けないのだ。
「…ああ、蔵ちゃん…おはよう、かなあ」
無理した笑顔の白鷺の脇に、蔵馬は拳を打ちつけた。
「馬鹿野郎!!」
「ごめんね…やっぱり怒ってる?」
2度目の謝罪。しかし彼の表情は変わらない。
「怒ってる。あんな軽率なことするなんて君は一体何を考えているんだ?!」
「蔵ちゃんの…役に立ちたくてさ」
「?!」
次の言葉に顔色が変わる。
「あのころ…一人だけ仕事は遅くて、特化した性質もなかったのに…それでもそばに置いてくれた…何も恩返ししてないのに…いなくなっちゃって…せめて役に立ってから死にたかった」
「…なぜ死にたいなんて…」
「独りに侵されちゃった…あはは」
蔵馬の全身に闇が広がった。鮮明に蘇る、自分が唯一心を許したかけがえのない友を置き去りにしたシーン…彼女の兄を見殺しにしたシーンが…。
さ…と手足が冷えていくのを感じながら、蔵馬は押し殺した声で言った。
「独り…にさせたのはオレだ」
黒鵺がいれば、彼女は孤独を感じはしなかった。
「違うよ。それでも蔵ちゃんは一緒にいてくれたから…自分の気持ちを押し殺しても毎日一緒にいてくれたでしょ?…あなたはそうやっていつも、私に沢山のものをくれてた…そんなあなたに負担は増やしたくなかったけど…追いかけて、どうしても役に立ちたくて」
「白鷺…」
やっと名前だけ紡いだ蔵馬に、白鷺は微笑んだ。
「ってことで…じゃあね蔵ちゃん」
「…どういうことだ」
「暗黒鏡…って命をとるんだったよね…どうも気を全部吸うってことらしいなあ…そろそろ…妖気が…なくなる」
ようやく冷静さを取り戻してきた蔵馬に、告げられたのは最悪の事実。オレと幽助の行為は無駄だったのか…?取り乱しそうになるところを堪えて、状況を打破する方法を今までの知識から探す。
「志保利さん…大事に…して…あげ…」
「白鷺!」
彼女の目じりから純水が零れる。それを最後にはさせまいと、あんな過ちは繰り返しまいと蔵馬は動いた。
自分の中にある妖気のありったけを白鷺に叩きつけた。彼女の胸に拳をつきたてて力を込めた。妖気の質が合わなければ共倒れではあるが…これがおそらく最善だ。何より時間がない。彼に迷いはなかった。
「はあああ!!」
(せめて彼女だけは…)
生かしたかった。そのことばまで意識を保っていられたか。
「おい蔵馬?!どうしたんだお前?!」
蔵馬の叫び声に起きたらしい幽助の声が最後となった。