紅白の獣
□密事
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「来たか」
黒い木が立ち並び、空も同じく真黒な夜。そんな中にこれまたまっくろくろなマントをはおった男が立っていた。
「ああ…」
道なきところから現れた赤髪の男。そして…
「よう、飛影」
ごつい風貌の大男も合流した。
「決行は今日だ…ぬかるなよ」
「そんくれえわかってるぜ」
「作戦は貴様の範疇だったはずだが、もう一度復唱しろ」
「侵入は北西第2ゲートから、入ったらすぐにオレと剛鬼、飛影に分かれる。飛影は先に宝物庫の中に薬を…」
先日からちょくちょく会って計画していたのは、霊界の宝物庫にある闇の3大秘宝を盗み出すことだった。降魔の剣、餓鬼玉、そして暗黒鏡。
蔵馬がこれに加担した理由、それはこの暗黒鏡にあった。あるものを差し出せば、どんな願いでも叶えてくれる魔の鏡である。これしか、方法は思いつかなかった。
薬草を調合し、いろいろな文献を読んで、千年の間に培った知識をフル活用してもどうにもならなかったこと。それがこの鏡では叶えられる。
「…最後にオレがここに戻ってきて、完了だ」
「わかったけどよ、本当にそれで大丈夫なのかあ?」
「じゃあ今すぐ新しい作戦を立てなおすか?この道に慣れている蔵馬より、貴様が良い案を出すというのならな」
「ぐ…」
「さっさと行くぞ」
「おう」
「…」
3人は体を抜け出して、霊界へと向かった。
「ねえ、蔵ちゃん。何隠してるの?」
「何の話だ」
屋上にて。変な視線を感じることがなくなったところで、白鷺が切り出した
「ここのところ知らない妖気が2種類も感じられるうえ、今日ちょっと挙動不審だからね」
先日、飛影と剛鬼とで3大秘宝を盗み出した。
どこまでつかんでいるのかはわからなかったが、目が笑っていない白鷺に蔵馬はいつも通りで返す。
「別に隠しごとなんてないよ」
「嘘つき。これでなくとも、あなた前から秘密主義だったんだから、何も隠してないなんてありえないよ」
「そういえばそうだね」
さて、どうやって誤魔化すか。
「志保利さんがらみなのはわかってる。何か力になれるかもしれないし、できれば教えてほしい」
なるほど、『関係しているのが志保利の病気』とまでしか知らないのか…蔵馬は少し安心したが、気取られないよう困ったように言った。
「…ごめん、無理だ」
今、蔵馬が手をつけているのは霊界レベルの重大犯罪。いくら旧友であっても、巻き込むわけにはいかなかった。
「そう」
意外にもあっさりと引き下がった白鷺。
「でも、これ持ってて」
「何だ?」
ごそごそとポケットをまさぐる白鷺を見つめていると、彼女ははい、と何かの結晶を取り出した。
紫と青の2つは、ちょうど蔵馬の片手に収まるくらいの小柄だった。
「痛み止めと…妖力回復だよ」
「ああ、鉱物治癒・ヒーリングだね。これは携帯用?」
「うん、妖気はちゃんとこめてあるから、一回だけなら使える」
魔界でも良く役に立っていたこの能力。何度かお世話になったこともある。白鷺の妖気でパワーストーンの気を高め、効用を得られる。もちろん使う石は選ぶようだが。
今回の石はモルガナイトとアパタイトのようだ。モルガナイトは無条件の愛、アパタイトは健康や精神に働きかける石のはず。
(無条件の愛…?)
反芻してみたが、彼女が使いやすいらしいので仕方ない。
「ありがとう…もらっておくよ」
「んー、そろそろ帰ろうかなあ」
「また明日」
「じゃあねー」
大手を振り振り去っていく白鷺。満面の笑みをたたえてはいたが、それも魔界での生涯で学んだこと。油断はできない。
(なんとか…ことが済むまでは…)
哀しげに笑んだ。ことが済む…すなわち人間界から消えるまで嘘をつき続けなければいけないのは蔵馬の罪の所為か?
「どうか幸せに…ごめん」
彼女に謝らなければならないのは一つではない…重い一言が、緩やかな風にさらわれていった。