紅白の獣

□四聖獣3
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「蔵ちゃん…ちょっといい?」

周りは岩ばかり、時々蜘蛛やトカゲも這うような城の中、白鷺が立ち止まり声をかけた。

「…ああ」

くるっと振り向いて、蔵馬が笑う。

「ん?どうした白鷺」

「ごめん、蔵ちゃんに用事があったの忘れててね…すぐ追いつくから」

「お、おう」

幽助に曖昧に答え、蔵馬に軽く首をかしげる。

観念したらしく蔵馬が彼女を見下ろした。

「やっぱりばれた?」

「うん。座ったら」

「…そうさせてもらおうかな」

言いながら腰を下ろした彼の横で白鷺が聞く。

「傷見せて」

蔵馬がぴらっと学ランとシャツをまとめて捲ると、

「…やっぱなー」

血ぬれになった包帯があらわになる。そこそこ出血も多い。ちょうど学ランが赤かったため滲んだ鮮血の色は目立たなかったが、やはり良く見ればわかる。飛影は背も低いし、血の香りにも敏感なのでおそらく気がついているだろう。

しかし自分のせいで蔵馬が傷ついたと思っている幽助には知られたくない事実。白鷺も気付いているので、あえて何も言わなかったのだ。

「今妖気を使うわけにもいかないからな…薬草はあるから、応急処置する間だけ待ってくれ」

「了解。でも次血が出たらヒーリングするよ」

基本的に頭の命に逆らわないというのは魔界で学んだこと。手当てをする時間は稼いでおいたのでまあいいか…と思った白鷺の考えは甘かった。

この後現れる敵はこんな事情などお構いなしだったのだから…



「皆さん、遅れましたー」

「用事終わったか?」

「うん。もういいよ」

桑原に声をかけられ、ひらひらと片手を振る白鷺の後ろにすらりと蔵馬が立っている。とても体に穴があいているとは思えない。汗一つ見せず、余裕の面だ。さすがである。

思った通り飛影は異状に気づいているようだが、特に何も聞いては来なかった。

「あ…ところで蔵馬、四聖獣ってどんな奴らだ」

「霊界が彼らを魔界に封じ込めていることからもわかるように、危険な連中だよ。かなり人間離れしてるから驚くかもね」

すると、歩いていた廊下の脇のドアの奥から、
「おほめの言葉ありがとうよ」

としゃがれた低い声が聞こえてきた。

「ここに一匹いるみたいだねえ」

幽助がバンとドアを蹴り開く。中にいたのは、ごつごつした岩のような皮膚をもつ亀の格好をした妖怪だった。部屋も全て岩に囲まれている。

「グフフ…よく来たな、この玄武様が可愛がってやるぜ」

「ででででけえ!!」

おののきまくる幽助と桑原を横目に

「上に上る階段はここにしかねえ…上には他の奴らもいるが、オレを倒さなければ先には進めまい」

と、玄武が嘲笑った。

「よーするにあんたは下っ端ってこと?」

「黙れ!!」

瞬間ドンと尻尾で岩を砕いた。けしかけた白鷺は面白そうに口角を上げた。

「まとめてかかってこい、オレの手間が省ける」

既にいらついているらしい玄武だが、相も変わらず白鷺は飄々としている。

「冗談じゃねえ!あ、あんな奴とどーやって戦うんだよ!」

桑原が目をまん丸にして焦っているが、白鷺は言った。

「桑っち落ち着いて。大丈夫、あいつなら私で充…」

しかしそれを遮る声が入る。

「オレがやろう。敵の性質がわからない以上、全員で行くのは危険だ」

「蔵馬!」

「この部屋なら私に分があると思うけど」

「君は戦わせないと言っただろ」

それを聞いていた桑原が真っ青なオーラで突っ込んできた。

「おうおう、こんなところでのろけか?」

「いや、至極真面目な話だ。白鷺、言ってもいいね」

「…うん」

「彼女は人間界で言う血友病…つまり血が固まらない体質だ。少しの怪我でも、彼女が治しきれなければ失血死する可能性がある」

「何?!」

無機質に簡潔に述べた事実に、今度は幽助も桑原も目がまんまる。白鷺は少々機嫌を損ねたようだ。

「だからなるべく戦わせたくはない。わかってくれるか」

「そういう理由なら仕方ねえな…オメーは戦闘要員にはしねえ。いいか」

「…足手まといかなあ…ごめんね」

「大丈夫だって」

幽助、桑原にも慰められ、しゅんとしながらも素直な白鷺を彼らに任せて、蔵馬は一人で玄武の前に歩いて行った。

「お、おい蔵馬!まだ一人で行くなんて…」

あわてて引き留めようとする幽助に、飛影が

「貴様は蔵馬の強さを知らんからな。自分に危害を加えようとする者に対する圧倒的な冷徹さはオレ以上だぜ」

と言い放った。

「そーそ。蔵ちゃんがいいって言ってるんだしね」

言葉とは裏腹に白鷺の表情は少々堅かったが、その目にはたしかな信頼があった。

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