痕物語

□其ノ参
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電車を降り、駅からバスで何時間も揺られ、捩眼山の麓へと辿り着いた。

「ふむ。『梅若丸のほこら』はこの階段の上にあるみたいだね。よし! 行くぞ! 君達!!」

「えぇ〜〜、この階段登るの〜!?!?」

「うそー!?」

巻さんと鳥居さんからブーイングが上がる。
それも、そのはず私たちの目の前には何百段あるか判らない階段がずっと山の上まで続いている。
カナちゃんが首を傾げながら疑問を口にする。

「清継君。その『梅若丸のほこら』って何なの?」

「『梅若丸のほこら』とは、捩眼山の山中にある妖怪博士との待ち合わせの場所だよ。あの有名な妖怪博士を知らないかい? 今日はボク達の為に妖怪博士が妖怪伝説のレクチャーをしてくれるのさ! これほど素晴らしい事はないよ! 家長君! はっはっはっ」

妖怪博士・・・?でも、ここには修行って疑問に思いながら。
皆、黙々と先の見えない石の階段を上る。
かれこれ30分は経っただろうか?
へばる人は誰もいない。
私も、普段からたくさん動き回ったりしていたため今の所はさほど疲労を感じない
しかし、立ち止まり、ふう、と額の汗を手でぬぐいつつ上を見上げると、何故か振りかえった奴良君の目とかちあった。

?と首を傾げると、しばらく奴良君は私をじっと見、何を思ったのか階段を下り、私の隣にやってきた。
その際、奴良君の隣を歩いていた及川さんは、「若!? どちらへ!?」と吃驚している。

若・・・・?あだ名?

「奴良君?」

「阿良々木さん、平気?」

「は、はい・・・平気、です。少し汗を拭こうと思っただけなので・・・」

「それなら、いいけど。辛かったらいってね」

「ありがとうございます。」

お願いなので、及川さんの所に戻ってください。視線がすごく痛いです。






流石に一時間階段を上り続けると巻さんと鳥居さんから、またブーイングが漏れ始めた。

「ちょっと、どこまで登ればいいのよー!」

「つかれたぁ〜」

「足、いたぁーい」

「別荘まだぁ〜?」

そんな皆に清継君は喝を入れるように口を開く。

「君達、これも修行だぞ! 主に会う為の妖怪修行だぁー!」


「でもさー、こんな山奥で待ち合わせー?」

巻さんが疑わしそうな目で清継君を見る。

「はっはっはっ。当たり前だろ。この地図にも『梅若丸のほこら』は山の中腹にあると書いているしね!」

「騙されたんじゃないっすかー? 人が全くいませんよー?」

島君が不信げな言葉を口にすると清継君は片眉をピクリと上げた。

「島君。妖怪博士がそんなことをするわけないじゃないか。」

ははは、わかってないなぁ、と両手を上げ肩をすくめる。

「人がいないからこそ妖怪が出るんだよ。多分ね!」

「……多分っすか」

「ちょっ、妖怪が出るってどーゆー意味よー!?」

巻さんが聞いてないわよー!? と食いつくと同時に花開院さんが「あ」と声を上げた。
皆が一斉に何? と花開院さんの方を向く。
花開院さんは木々に囲まれた中にポツンと建てられたおじぞうさまを祀ってある祠を指指した。

「あれ……なんやろ?」

「梅若、丸?」

「阿良々木さん、すごい目がいいんやね?」

「は、はいっ!人よりは目がいい方なので」

と、言っているうちに清継君が祠に近づき歓喜の声を上げた。

「やったー! ここが『梅若丸のほこら』だよ!!」

と、階段の横にある木々の影から一人の登山服を着た小柄なおじさんがぬっと姿を現した。

「やぁ。流石は清十字怪奇探偵団だ。意外と早く見つけたね」

眼鏡をかけ、ボサボサな髪をそのままにした、ちょっと小汚そうに見えるおじさん。
皆が吃驚している中、清継君はその人を見ると喜び勇んで、その男性に駆け寄った。

「お会いできて嬉しいです! 妖怪博士と異名を持たれる化原先生っ!!!」

「うん。うん。」

清継君はその男性の手を取り、感激を体で現すように握った手を激しくぶんぶんと上下させる。
そんな中、皆の目は冷たかった。

「あれが…妖怪博士ぇ〜?」
「きったない……」
「同感……」

そんな皆の呟きは耳に入らないのか、その男性は清継君から手を放すとくるりとこちらを向き、何故か、にまにま顔で両手を広げて近寄ってきた。

「いやぁ〜、うれしいなぁ〜、こんなの若い女の子達が妖怪に興味持ってくれてたなんてねぇ〜」

私たち女の子はささっと我先にと逃げる。その折に、おじさんの頭の上あたり何もないはずの空間がきらりと光る
糸・・・・?

「で、この梅若丸って何なんですか?」

「ははは。いい質問だね。君。取りあえず座ろうか〜?」

皆、妖怪博士の話しを聞く為に階段や近場の石に腰を下ろした。
妖怪博士は、この山に伝説として残された梅若丸の話を語る
鬼となり、人を襲う妖怪となった少年の物語を

「はー、意外にありがちな昔話じゃん」

「妖怪修行なんて言うから、もっと怖い妖怪の伝説があるのかと思ってたー」

「同感」

皆さん拍子抜けかのように、話すけれど私は、そうは思わなかった。

「君達、信じてないようだね〜。んじゃ〜付いてきてくれたまえ〜」

不思議そうな顔の私達を連れて、妖怪博士は階段から外れた山道を奥へ奥へと進んだ。
草が生い茂った急坂を登り、獣道を妖怪博士は進む。
みんなは行を切らせている。かく言う私も流石にへとへとになっていた。

しばらく山を登り続けているといつのまにかうっすらと霧が発生し、前が見辛くなる。
そんな中、妖怪博士の自慢げな声がした。

「着いたよ〜。これが伝説の妖怪の爪さ〜」

「「「「え!?!?」」」」

そこには2メートルもの大きな蜘蛛の足のようなものが木々に深々と突き刺さっていた。
驚愕に皆は目を大きく見開く。

「つ、つ、爪ぇー!?」

巻さんの大きな声が捩眼山に響き渡った。
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