I's dream
□13日の金曜日
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@千穂side
冷やし固まった生チョコレートを冷蔵庫から出すと、よく温めた包丁で丁寧に切り分ける。
上からココアをまぶして、そこにハートに切り抜いた型紙を置く。
そして粉糖を、微かに震える手で、そっと振りかけた。
静かに型紙を外すと、そこに現れたのは真っ白なハート。
「…よし、できた」
あとはラッピングをして、メッセージカードを付けて…
私の本命チョコが今、ようやく完成した。
乾先輩に告白すると決めた、今年のバレンタイン。
当日が土曜日で学校が休みなのは、私にとっては好都合だった。
先輩は部活を引退した今でも、毎週金曜日になると、海堂くんに練習メニューのアドバイスをするために部室に顔を出してくれる。
だから前日の13日、金曜日
乾先輩が朝、部室に来たところで
想いを伝えられたら、って。
ベッドに入っても、目が冴えていた。
緊張していないと言えば嘘になる。
けれど、もう何度も『その時』を思い描いてきた。
部室に乾先輩だけになったのを見計らって、チョコレートを渡して、飾らない言葉で「好き」って伝えるんだ。
先輩、どんな顔するかな…
『ありがとう…俺も好きだ、千穂…』
なんて…言われたり、しないかなぁ…
私の妄想の中の乾先輩は、いつだって私を幸せにする。
ニヤニヤする顔を止められなくて、気付けば深い眠りに落ちていた。