* 本文(R18) *

□― 発情 ―
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それは、とある初冬の朝の出来事だった。

その日も政宗はいつもと同じ時刻に目を覚ますと、布団に入ったまま一服しつつ、部屋付きの小姓が火鉢を持って来るのを待っていた。
この所めっきり冷え込みが厳しくなってきたと思っていたが、今朝は特に寒い。そろそろ奥州にも、本格的な冬が来るのだろうか。

煙管の中の煙草が燃え尽きると同時に、愛用の火鉢が部屋に運ばれた。政宗はそれが置かれるなり赤々と燃える火の側に寄ると、凍るような外気に震えながら大急ぎで夜着の帯を解き、愛用の白い小袖を手に取った。
しかし、白絹を肌に滑らせ、上半身を露にしたその瞬間。政宗は不意に手を止め、小首を傾げた。

着物を羽織りがてら何気なく見下ろした自分の身体に、僅かな違和感を覚えたのだ。

「いや…………まさかな」

そんな事あるものかと現実から目を逸らし、素知らぬふりで小袖に腕を通す。
しかし、やっぱり気になってもう一度胸部を見直すと、意識として認識するより先に心臓が跳ね上がった。

「not kidding………really?」

認めたくはないが、やっぱりそうだ。顕著とまでは言わないが、微妙に変わっている。
胸が――――乳首が、自分の記憶あるそれより、何だか少し大きくなっていたのだ。

「…………………」

政宗は襟を開いたまま数秒固まった後、すぐさま火鉢に近付いて身体を温めた。熱さを感じるほど熱を加えると、次第に肌の凹凸は治まった。だが困ったことに、問題の場所に改善は見られない。
その後も乳輪付近の皮膚を引っ張ったり、大胸筋に思い切り力を入れたり、様々な事を試してみたが結果は全て同じ。
以前より存在感を増した乳首は、平たい胸の上でツンと自己主張を続けている。

「マジか…………」

本当に、いつからこんな事になっていたのだろう。
叫ぶほどではないが、地味にショックだ。政宗はじっと胸を凝視しながら、薄暗い気持ちで溜め息を吐く。
そして同時に、こうなってしまった原因と、犯人の顔を思い浮かべた。

「やっぱ、アレ………だよな」

火鉢に当りながら表情を曇らせる政宗の背後で、誰かが廊下の踏み板を軋ませ、此方へとやって来る気配がした。
大きな体躯そのままの重さを感じさせるのに、不思議と軽やかに廊下を滑る独特の足音。聞き覚えのあるそれは、間違いなく政宗の乳首をおかしくした犯人のものだ。

「政宗様、お目覚めですか?小十郎にございます」
「……ha!」

丁度良い時に来やがった。
政宗は突き上げるような苛立ちに奥歯を噛み締めると、勢い良く障子を開けた。
朝日に輝く床板の上では、整然と膝を揃えた小十郎が、やや驚いた顔で政宗を見上げている。

「政宗様。そのように慌ててどうなされました」
「うるせぇっ。取り合えず中に入れ!」
「それは構いませんが、一体何を怒っていらっしゃるのです」
「良いから早くっ!」

今にも噛み付きそうな剣幕で小十郎を部屋に引きずり込んだ政宗は、暫く誰も近づかないよう人払いをすると、身体の正面を室内に向け、後ろ手に障子を閉める。
顔を合わせるなり妙な格好で畳に転がされた小十郎は、政宗の暴挙を不行儀だと感じたのだろう。姿勢を正して座り直し、傅役時代さながらの厳しい目付きで睨みを利かせるが、この男に説教をする資格はない。

むしろ、怒りたいのは自分の方だ。
怒り心頭の政宗は、小言が始まるより早く小袖の襟を大きく開くと、小十郎の眼前に己の胸部を突き付けた。

「政宗さ………」
「これを見てみろ!俺の身体をこんな風にしやがって、どう落とし前つけるつもりだこの野郎!」
「こんな風にって……。何かおかしな所でも?」
「良く見てみろっ!乳首だよ。ちーくーび!お前がしつこく弄るから、なんかでっかくなっちまっただろ」
「はぁ……。そう言われてみれば、以前より少しふっくらと可愛らしくなられたような」
「か、可愛いとか言ってんなよバカっ!俺はこれでも結構ショック受けてんだぞ」

しかし、政宗の必死の訴えにも関わらず、小十郎は少しも狼狽えた様子を見せない。
それどころか酷く真剣な顔で、「それの何がいけないのですか?」などと聞いてくる。

「確かに少々お育ちにはなられていますが、政宗様の胸は元々小振りでしたからな。少しくらい大きくなった所で、取り立てて騒ぐ程のものではないでしょう」
「でも実際前とは違うし、もしも戦の時とか夏に川で泳ぐ時とかに、あっコイツ乳首でっかくなってる!とか思われてたら嫌じゃねぇか」
「まさか……。いちいち貴方の乳首を以前と比較する奴など居りませぬよ」
「随分と自信満々だな。俺の身体なんか誰も興味がないとでも言うのかよチクショウ」
「いいえ。そうではありませぬ。そのような不埒な輩は、この小十郎が即座に斬って捨てるから居らぬ。と言う意味にございます」

冗談ぽく聞こえるが、その言葉に嘘はないのだろう。
口許に微笑を浮かべながらも目だけは冷たく凍らせたまま、小十郎はひんやりとした政宗の脇腹に指を這わせる。
こそばゆいような強さで肌を撫でるガサついた指先に、政宗は思わず身を縮め、腹の底からフゥっと息を漏らした。

「御身を隅々まで眺め、触れて良いのは小十郎だけでしょう?それとも、他に肌を晒したいと思う者でも出来ましたか?」
「………お前の他になんて。そんなヤツ、居るわけねぇ」
「ならば何も支障はありますまい。さぁそのように拗ねたりせず、ご機嫌を直されよ」
「あっ、こら……小十郎……」

いつの間にか腰に巻き付いた腕に引き寄せられ、政宗はガクンと膝を折る。
鎖骨に触れる吐息の感触が、妙に優しくてもどかしい。政宗は身体の奥に蓄積する熱を感じながら、寒さとは違った意味で肌を粟立たせた。

「こじゅ……っ…はっぁ……」

脇腹にあった左手がそろそろと場所を移し、胸の辺りをまさぐる。
政宗は今にも泣きそうな顔でそれを止めようとしたが、小十郎は少しも言うことを聞いてくれない。
結局、無遠慮に肌を滑る手は程なく乳首に辿り着くと、淡い色の先端を爪の先で何度も引っ掻いたり、指の間に挟んでクニクニと捏ねたり、卑猥な動きで粒を弄り始めた。

「あっ!ぁ……っ小十、郎ダメだって……」
「確か前回ここを可愛がって差し上げたのは、三日前でしたね。そろそろ御体が寂しくなられる頃ではありませぬか?」
「ん……でも、弄ったらまたおっきくなるかもしれねっ……ぁ、あっ……」
「では、止めてしまいますか?心底お嫌なのでしたら、無理強いは致しませぬ」
「っ……………」

痺れるような甘さに湿った息を漏らしながら、政宗は困惑気味に眉を下げる。

主従と言う関係だけでは到底耐えられぬと心を結び、体を重ね始めてから約半年。 抱かれる事に慣れた政宗の身体はすっかり男の味を覚え、小十郎に導かれるままに妖しく淫らに開花していた。
中でもほんの数ヵ月前小十郎に開発された乳首は、時折そこだけで達してしまうほど感度が良く、弄られ過ぎると肥大すると言う事実を知るまでは、むしろ自ら愛撫をねだるほどお気に入りの場所だったのだ。
触られた挙げ句、中途半端に止めようかと言われ、「分かった」と即答出来る筈もない。

理性と欲望を秤に掛け、ぐらぐらと揺れ動く心。どうして良いか分からず熟れた瞳で小十郎の顔を覗き込むと、小十郎は少し意地の悪い笑みを浮かべながら、緩く捏ねていた右の乳首を突然強目に揉み出した。

「あっ!……んっ、小十郎っ!嫌っ、ぁあっ!あっ……」
「つまらない事にこだわらず、素直におなりなさい。貴方が求めて下されば、小十郎はどんな望みにも応えて差し上げますよ」

それとも、本当に止めてしまいますか?
それまで優しかった小十郎の声が一変、 ゾクリとするような低い響きで内耳を侵す。

一言文句を言ってやる筈が、どうしてこうなった。
いつの間にか小十郎の思い通りになっている現状は、正直言ってかなり悔しい。しかし意地を張り続けてこのまま放置されたら――――
既に息を荒げる政宗は、赤くなった目元を更に潤ませると、黙って首を横に振った。

「小十郎、早く………しろ」

いつもそうするように自ら乳首を近付け、小十郎の唇に粒を擦り付ける。
政宗のおねだりに満足そうな顔をした小十郎は、乳輪ごとそれを口に含み、ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げる。

「んっ!はっ………あっ、あっ…ん」

右側を休みなく捏ねられながら、左側は先端を細かく舌で弾かれる。
待ち望んでいた刺激に政宗が嬌声を上げると、小十郎は乳首の根本に軽く歯を立て、口内で孤立した先端を飴玉を舐めるようにコロコロと転がした。

「あぁ!っん、ぁ……ん、んっ……」
「如何ですか、政宗様」
「いぃっ………気持ち良い………」

快感に下肢が痺れ、しっかり立っていなければと思うものの、上手く力が入らない。
けれど、この愛撫を止めて欲しくなくて、もっと乳首を可愛がって欲しくて。政宗は小十郎の首筋にすがり付き、必死で身体を支えた。

「こじゅ……っあ、あぁ……ん、ぁ……」
「政宗様は、本当にここがお好きですね」
「ん、あっ、ぁ………あっ、あっ……」
「ほら、乳首に触れただけで、こんなに蜜が溢れていますよ」

小十郎は左右の乳首を交互にしゃぶりながら小袖の裾を捲り、下帯の上から屹立した自身を焦らすように撫でる。
随分と前から張り詰めていたそこは、乳首の愛撫によって十分追い詰められていたらしく、小十郎に触れられるより先に透明な蜜で布地を湿らせていた。

「はぁっ、あっ!あぁっ……あ……はっ…」

小十郎は器用に下帯を緩めると、中から自身を引き出し、直にそれを上下する。
乳首に加え、自身への動きを与えられた事により、政宗の口からは絶え間なく甘い喘ぎが溢れ出した。

指で摘ままれ、舌先で転がされ。散々粒を弄られるその下では、反り立つ自身を繰り返し扱かれる。
人払いをしてあるとは言え、こんな朝っぱらから何をしてるんだ。
快楽に弱い自分に呆れつつ、政宗は解放に向けて夢中で腰を揺らす。

「小十郎っ!あっ、あぁ!……んっ、はっぁ……」
「政宗様……。イキたいですか?」
「ん、ん……イキたい。もっ、早くイかせて……」

うわ言のようにイキたいと言いながら、政宗は小十郎の肩に指を食い込ませる。
小十郎は右側の乳首に舌を這わせたまま欲望にギラつく瞳を歪ませた後、口腔にある粒を噛み、もう片方をきつく捻り上げた。

「んっ!あ、ぁぁ――――――」

刹那、政宗の自身はドクンと大きく脈打ち、先端から白濁を噴いた。
次々溢れる体液は、小十郎の指を濡らすだけでは足りず、ポタポタと畳に落ちて行く。

「………はっ……はぁ………」
「朝の支度がござりますゆえ、今はこれでご勘弁を」

恍惚とした表情でその場にへたり込む政宗を眺めていた小十郎は、腹立たしいくらい清々しい顔をすると、そう言って静かに唇を重ねてきた。








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