* 本文(現代転生) *

□valentineday kiss!
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2015年2月14日土曜日。

片倉小十郎は、会社から持ち帰った書類に目を通しながら、チラチラと時計を気にしていた。

ただ今の時刻は、23時48分。

これから出発すると連絡が入ったのは30分ほど前だから、そろそろ到着するだろうか。

そう考えると落ち着かなくなって、何回かベランダに出て車道を確認したり、ソファーのクッションの位置を意味もなく直したり、妙にそわそわしてしまう。



片倉の待ち人こと伊達政宗は、二十歳の男子大学生である。

突飛な話なのだが、二人は前世からの恋仲で、色々あって最近現世でも恋仲になったのだ。
片倉はこの9才年下の恋人が可愛くて可愛くて堪らない。


12才の頃から彼を知る身としては、何だか犯罪を犯してるような罪悪感もあるし、正直こんな仕事しか取り柄のない無趣味なオッサンのどこが良いのか。

って言うか、やっぱりオッサンはちょっと無理とか捨てられたらどうしよう。間違いなくショック死する。

と、ぐるぐる思い悩んだりもするが、毎日叫びたいほど幸せなのだ。



「我ながら重症だな…」

ベランダのサンダルを脱ぎ捨て、身震いしながら部屋に戻ると、玄関の方からそっとドアが開く音がした。

片倉は高鳴る心臓を抑えつつソファーに座り直し、さも仕事をしているように書類を眺める。


「先生、遅くなってゴメン」

「遅いから心配した。おかえり」

「ただいま」

外は寒かったのだろう。
政宗はマフラーから赤くなった鼻を覗かせ、照れ臭さそうに笑った。






「今日は土曜だから、店も忙しかったろ」

「そこそこね。ねぇ、店のフードが余ったから貰ってきたけど食べる?」

「うん。ちょうど小腹が空いてたんだ」

大きめの紙袋から、政宗が食べ物の入ったパックと割り箸を出す。

「随分大きい袋だな」

「今日ってバレンタインだから、お客さんかくれたチョコレートもついでに入れてきた」

わざわざ店までチョコレート持ってきてくれるなんて、皆良い人だよねー。

と、20個ほどのチョコを出すが、やけに凝った包装から妙な気合いを感じるのは何故だろう。

義理か?この手作り感満載のチョコはホントに義理か?

大体バレンタインにチョコレート持ってバーに来るとか、私フリーです。政宗君付き合って(ハート)って言ってるようなもんだろう。

それでホワイトデーにはキャンディーじゃなく政宗君を舐めさせて(キスマーク)的な。

な、なんて破廉恥な!

良い人どころか、狙われてるぞソレ。政宗も少しは気付け。


片倉がまたぐるぐる考え込んでいた時である。


「…そこに積み重なってるの、もしかして全部チョコレート?」

政宗が、テレビボードの横にある箱達を指差して言った。

全部で30個ほどあるだろうか。

昨日会社の女性達に頂いた物だが、家に着いた途端紙袋が破れてしまったため、テレビボードの横に置いておいたのだ。

「これ全部貰ったの?」

「あぁ。でも俺は余りチョコレート食べないから、いつも姉の家に送るんだ」

「ノイハウス、ラデュレ、カカオサンパカ?…なんか高そうなのばっかだね」

「たかが義理チョコでも、仕事繋がりだと気を使ってくれてるんだろ。女性は大変だよな」

「義理…ねぇ」

「義理だろ。毎年こんな感じだし」


片倉はさらっと言うが、実はそれらのチョコ全てが「義理」ではなく、一つ3000円以上はする「超本命」であることには全く気付いていない。
と言うか、大して好きでもないチョコレートにも、政宗以外の人間にも、そもそも興味がない。

結局片倉は高級チョコには目もくれず、政宗が持ってきたパックの輪ゴムを外すと、飴色に煮えた肉に目を輝かせていた。



「おっ!このスペアリブは美味いな」

「だろ?それ自信作」

「そうだ、良いワイン貰ったんだが飲むか?」

「あ、飲みたい」

こうして二人は、互いに寄せられた好意に微塵も気付くことなく、呑気に夜食を楽しんだのである。





30分後――


「おい政宗、ちょっと飲みすぎだぞ。大丈夫か?」

「超へーき!まかして!」

「……酔ってるな」

少し目を離した隙に、政宗はまた飲みすぎたらしい。

真っ赤な顔でニコニコしながら、ソファーにゴロンと倒れると、眠そうに目を擦る。

「こら、そんなとこで寝るな 」

「だってぇ〜」

「だってじゃない」

酔った政宗も無防備で可愛いが、風邪でも引かせては大変だ。

とりあえずベッドに運ぼうと、片倉が政宗の背中に手を当てた瞬間、政宗がポケットから何かを取り出して唇に挟み、片倉の口に押し当ててきた。

「ま……っ」

開いた隙間から口の中に入った何かは、舌の上で甘く、トロリと溶けて行く。

自分の口内に在るものがチョコレートだと気付くと、政宗は赤い顔を更に赤くさせ

「…バレンタインだから、一応」

と、呟いた。


「バレン……タイン」

「もしかして引いた?」

「いや…」

誰が引いたりするんだ。
むしろ今すぐ押し倒して、一晩中、思いきり×××(自主規制)したい。

しかし酔ってる政宗相手にがっつくなんて、良い年こいた大人がすべき事だろうか。
でも、この桜色の肌は捨てがたい。


またあれこれ悩んでいると、柔らかい唇が何かをねだるようなキスをするから、理性などあっという間に吹き飛んだ。

「そんなに煽ると、襲うぞ」

「良いよ。ね…いっぱいして」

潤んだ瞳を細め、政宗が甘ったるい声で囁く。

駆け上がる想いに、頭がおかしくなりそうだ。


「政宗…」


溶けきったチョコレートを飲み込み、そっと口づける。

しかし、何だか無反応だ。


「政宗?」

もしてして…頬をつついてみると、ムニャと口が動く。

嘘、だろう。

あろうことに酒に弱い政宗は、ほんの一瞬の隙をついて眠りに落ちていたのだ。


「………の○太かよ」


片倉は、どうしたものかと固まるが、こうなったら仕方ない。

ふぅっと息を深く吐き出し、気持ちを整えると、政宗をベッドに運んだ。



「ん……」


政宗は、幸せそうな顔で眠っている。
その姿を見ているだけで、とても心が満たされるから不思議だ。


「小十郎」であった頃も、こんな気持ちで「政宗様」を見ていた事を思い出しながら、鳶色の髪を優しく撫でると、自然と笑みが零れる。


少し前までは、過去の記憶を現在と関連付ける事は苦手だったが、今は素直に「小十郎」であった自分を受け入れられるようになった。

生まれ変わりは、単調な繰り返しではなく、奇跡なのだと。

前世の記憶を持ち生まれてきた事は、不運ではなく、幸運だったと思えるようになったのだ。




「おやすみ、政宗」


寝室の照明を落とし、そっと額に口付ける。






静かに更け行く夜。

君の息遣い、響く鼓動。
ほんの少しあどけない寝顔。

世界にこれ以上の幸せなんてあるのだろうか。



そんな事を考えながら、片倉は出来るだけ音を立てないよう、寝室のドアを閉めた。




Happy valentine!
Life began after I fell in love with you……





[End]



拍手用に書いたお話を、ちょこっと加筆修正致しました(^-^)
この辺から片倉先生のキャラが変になりますが、実は懐の深い政宗君は、そんな先生も大好きなので大丈夫だと思います(笑)


ちなみに最後の英文は「僕の人生は君に恋をしてから始まった」みたいな意味です。
まるで双竜のためにあるような言葉ですよねww

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