七つ子の夢・T

□第三話
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皆が作業を終えて帰宅する頃、噴水広場にはウィスタリアとハンクスしか残っていなかった。彼女の足下にはいつの間にかルウがいて、暢気に自分の体を舐めている。
ウィスタリアは少しだけ表情を暗いものにして、騒動の発端を見つめていた。


「やっぱり、ユーリは帰って来ませんでしたね。ラピードは帰って来たのに…」


「いつものことじゃ。そう心配しなくてもいいじゃろ」


「そう、ですね…」


いつものこととは言え、心配なものは心配だ。ハンクスもそう言いながら、表情がウィスタリアと似たり寄ったりである。


ユーリの相棒・ラピードが、大きな皮袋をくわえて一人(?)で帰ってきたのには驚いた。皮袋の中身は、じゃらじゃらとした金属音でなんとなく予想はできたが、ユーリが帰ってこない状況で下手に手は出せない。ラピードも皮袋を誰にも触れさせず、さっさとユーリの部屋に帰って行った。


彼女が見つめる水道魔導器のある一点とは――魔導器の原動力である“魔核”があるべき場所。そこはぽっかりと空洞となっていて、夕闇とともに暗い影を落としている。
それこそが、下町があわや水没の危険にさらされた原因。魔核がなくて制御しきれず、水道魔導器は暴走してしまったのだ。


誰かが魔核を持ち去った――。


その可能性がある人物は、修理を依頼したモルディオという貴族。
そう合点したユーリは、貴族街に魔核を取り返しに行ったのだ。


「さあ、ウィルも早く帰れ。ラムダ達が心配するぞ。あと、あのバカが帰ってきたら治癒巧ぐらいはしてやれ」


「そうします。――帰るよ、ルウ」


ルウを抱き上げハンクスに「また明日」と軽く会釈してから、噴水広場を後にする。
帰宅ついでに幸福の市場に寄り、新しい商品が入っていないか見ることにした。これは仕事終わりのちょっとした息抜きで、また楽しみの一つであった。


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