航海
□第八話
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海軍本部中将の手により、北の海最大の麻薬農場は大規模な掃除が行われた。元締めを含めた島民は逮捕され、未だ幼い子供らは更生、若しくは保護施設に預けられた。
原料となる植物の種苗及び既に製造された麻薬は全て押収された。
だが島がーー歴代の元締め達が長年をかけて収集し、築き上げてきた政府関係者若しくは裏社会の大物達のコネクションの情報だけは手に入れる事が出来なかった。
元締めや島民が、残された子供達に裏社会からの報復がある事を怖れ、頑として口を割らなかったのである。
ドフラミンゴは直ちに新たな農場を探し当て、取引の準備に取り掛かっていた。これには島のコネクションが大いに役立ったと言う。
逃げる際に、島から取引相手のリストを奪っていったからである。
それから二年が経とうとしている。相変わらずドンキホーテファミリーは海軍に捕縛されず、北の海に悪名を轟かせていた。
茫漠の海には、日の当たらぬ場所が幾らでもある。それは深く、暗い、闇の淵。そこから無法が生まれ、外道が生まれーー海賊が生まれる。
その深淵を覗いたならば、人は簡単に飲み込まれる。
闇を完全に消し去る事は不可能であろう。
ドンキホーテ海賊団が新たな取引相手との交渉の為に訪れた島は、観光地として有名な場所であった。その島は亜熱帯気候に属し、海は緑の美しい貴石の色に染まっている。
島の財政を支える収入は税金と観光に因るところが大きい。船乗りが素泊まりできる安宿から、王侯貴族を含め金持ちを標的にした高級リゾートホテルまであった。
「うわぁ。眩しい!」
「暑い…」
「もう。他に何か言うこと無いわけ。ローは?」
「アッチーな」
「それしかないの?つまんない」
「お前が訊いたから、答えたんだろう!!」
ギロッ!!とローに睨まれたベビー5は泣きながらグレイスに抱きついた。
泣くぐらいならやらなければいいのに。何でいつもローに突っかかるんだ。
ベビー5をバッファローに託してグレイスは船内に戻っていく。
「どこ行くだすやん?」
「砂浜でビーチバレーしようって言ったじゃない」
「忘れ物。すぐに行く」
もう泣き止んだらしいベビー5に向かって言いながら、幼年組に与えられた部屋に向かう。
そしてハンモックに置き忘れていた鉄扇を取って背中に隠した。これは父親と別れる際に渡され、肌身離さず持っていろと言われていた武器。思い入れがある訳ではないが、持っていないと落ち着かない。
早く皆と合流しようと船を出て、街と船を結ぶ桟橋を渡る。砂浜に降りて、岩と背が高く細い草が生い茂る横を通り過ぎようとし、何かに気付いてゆっくりと後退する。そして目当ての場所に着き、乱雑に生えた草の影からそっとその先を見る。この島の気候では怖ろしく似合わない、暑苦しい黒い羽毛のコートを羽織った大男のコラソンがいた。彼は草むらに隠れて座って、電伝虫の受話器に向かって何か話していた。
コラさん。喋れないんじゃ……。
ここからでは声は聞こえないが、口の動きから喋っているのは確かだろう。
コラソンの口の動きに集中する。やがて彼の口が止まった時、グレイスは気付かれないように足音を極力消し、背を低くしてその場を去った。
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