航海

□第六話
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秘密の共有は、自然と連帯感を二人に持たせた。

傷ついた動物を見つけ、大人に内緒で自分達で世話をするーー子供らしい秘密。

秘密の場所で動物の小さな家を作り、持ち寄った餌を与え、仲良くなったら一緒に遊ぶ。

それは束の間の楽しい時間。大人になった時に思い出すと、くすぐったくて切ない想いが胸に広がるだろう。

束の間は束の間。すぐに終わりの時が訪れる。



ドンキーホーテファミリーがこの島に来て、もうすぐ一月が経とうとしている。その間、ドフラミンゴを筆頭とする最高幹部は島の裏社会の元締めとのコネクションの獲得に掛かり、他の幹部は情報収集や喧嘩を売ってきた下部組織(野良犬)への“矯正”を行った。
目的は達成しつつあった。コネクションの獲得は良質な麻薬の確保と、下部組織への“矯正”ーー事前に餌を撒き、ものの見事に食らいついてきた間抜けな連中に、ドンキーホーテファミリーの力を誇示し、交渉を有利に進める為だ。

実は麻薬の原料となる植物を島全体で栽培・密造しており、北の海の市場に出回る麻薬の約四分の一がこの島のものであった。良質で末端価格は億を下らない。
ドフラミンゴはこの巨大な“農場”を欲した。麻薬の密売は莫大な資金源となるからだ。将来を見据え、この島そのものを乗っ取る気であった。

麻薬も使用法と量を間違えなければ立派な薬であり、世界政府の認可が下りて初めて公に栽培できる。だが数は少なく、公に認められているものは政府直轄の研究機関ぐらいであり、勿論、北の海の辺境にそのような施設はない。
島そのものが非合法に手を染め、糧を得る犯罪者であった。

当然、政府は容認している訳ではない。だが取り締まろうにも取り締まれない理由があった。

島の海域に棲息する海王類の存在。北の海でも凶暴且つ高い知能を持ち、海王類では珍しく群れで生活する。主食は海獣だが稀に別の海王類を襲う事もある北の海の狩人(ハンター)。
狩猟(ハンティング)の際は、フォーメーションを組んで一個体が獲物の注意を引き、他の個体が静かに近付いて一気に捕獲する。また船や巨大な軍艦をも襲い、数体が船体の真下に潜り、一斉に浮上して転覆させてしまう。
そして島を囲む巨大な渦潮の壁。潮流の激しい渦に巻き込まれ、破壊された船は数知れず。消えた瞬間を狙っても、すぐに新たな渦潮が発生し飲み込まれる。
時間帯を見極めれば島に到達する事も出来なくはないが、今まで海軍が来たことはない。

最大の理由は、賄賂。

歴史は長く、数多くの権力者や海兵が甘い蜜を吸ってきた。例え正義に燃える者がいても、次々に闇に葬られた。
故に彼の島の海域を受け持つ者は報復を怖れ、悪逆の行いに目を背け、やがて同じ穴の狢と化す。

どのような輝ける信念を持っていても、闇の深淵に嵌まってしまう不完全な正義だがーー。

悪を駆逐する不屈の意志、不変の信念。

世界政府の正義を掲げる船の上で、冷厳の眼差しを彼の島に向ける海軍将校。

もうすぐ其処へーー。
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