航海

□第五話
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気配に敏感なグレイスの後ろ姿がぎりぎりに見える距離で、ローは彼女を尾行する。背が低い彼が目の前の人間にぶつかっても、ローは謝らない。不快げに自分を見る視線を無視して、彼女の姿を追った。今日こそ、どこに行くのか突き止めてやる!

昨日、今日と同じくグレイスを尾行していると、チンピラとは言わないまでも短気な若い男に不注意でぶつかってしまった。謝っても許してくれない男にローも遂に怒り、一触即発の状態に。その時、事態を察知したグレイスが事を収めてくれた。収めたと言っても、痺れ粉入りの煙幕で両者を動けなくしたのだが。

何故ここにいるのか正直に言えるはずもなく、痺れ薬の効力で動けないローは背負われながら「余計な真似すんじゃねぇ」と怒鳴って誤魔化した。あまり興味がなかったグレイスは追及せず、ローの五月蠅い濁声を聞き流しながら隠れ家に戻った。
何故ローを背負って戻ってきたのかグラディウスに問われた時、立ち合いで痺れ薬を使ったと嘘の説明をした。
ローはまたグレイスに負けたと思われて癪だったが、逆に嘘を吐いた彼女自身が何処に行っていたのか、問われたくなかったのだろうと理解した。

嘘を吐いてまで秘密にしておきたい事とは何なのか。
当然ローは暴き立てるつもりだ。誰にも知られたくない秘密ーーグレイスの弱味なら、それを握ってこき使ってやる。こいつを部下として使いこなせたなら、自分を幹部にするとドフラミンゴは約束した。

ドフラミンゴは将来ローが自分の右腕と成り得る男と見込み、その証明としてグレイスを部下として使いこなせとは言ったが、すぐに幹部にするとは言っていない。
人間とは勝手なもので、しばしば他人の言葉を自分に都合良く解釈して記憶する事がある。

今日こそは突き止めるのだと意気込むローの心情など知らないグレイスは、ズンズンと目的地に向かって進む。
海辺に近い防風林の道を突き進み、ふと止まったグレイスは海を眺める振りをして周囲の様子を窺う。ローは咄嗟に防風林の木の陰に隠れた。どうやら気付かれなかったようだ。
彼女は人がいないことを確認してさっと防風林の中に入って消えてしまった。

右側が海、岩礁に波が寄せてはぶつかって砕ける。左側が林、潮風除けの目的で人工的に作られたが、かなり前に街の財政の関係で世話をする者はいなくなった。長年かけて自生した植物が無造作に生い茂り、獣や野犬も棲みついた危険な場所と化して滅多に人は寄りつかず、実はこの防風林の道を使う者も少なかった。

こんなところにコソコソ一人で入っていくんだから、間違いなく何かある。

ローはグレイスが消えた辺りに近付く。子供の小さな体とは言え、草木を折り曲げて無理矢理入っていった痕跡があった。
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