航海

□第一話
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草木が燃える。

家畜が燃える。

小さな家が燃える。

人が燃える。

真っ赤に燃える、人、人、人。

男が燃える。

女が燃える。

子供が燃える。

乳飲み子が燃える。

老人が燃える。

健常者が燃える。

身障者が燃える。

誰も彼も区別なく、平等に、公平に。

燃える。燃える。燃える。燃える。燃える。燃える。燃える。燃える。

「殺せぇ!」

「皆殺しにせよ!」

蛮勇の兵(ツワモノ)どもの声が炎の中で木霊する。

聞こえる。聞こえる。いやでも聞こえる。

悲鳴が、泣き声が、怒声が、断末魔が。

「一人も生かすな!」

我々はあなた方に何かしたか。

我々は罰せられるべき罪を犯したか。

我々は死で以て償うべき罪を犯したか。

無機質な碧眼が、全てが燃える灼熱地獄を黙って見つめる。

子供の目だった。

女児の目だった。

幼気(イタイケ)な少女の目だった。

だがその目には、感情が無かった。

燃えているものは、少女の同胞だった。

家だった。

故郷だった。

それなのに少女は、目の前で起きている事象に対して、恐れ、怒り、憎しみ、悲しみを抱いていないのか。

少女の側には男が立っている。

男は突として少女の肩を掴み、跪いた。

「ー」

滂沱の涙を流し、少女を抱きながら叫ぶ。

まるで懺悔のように。

まるで願いのように。

まるで宣誓のように。

少女は何も言わなかった。
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