七つ子の夢・U
□第三十八話
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魚人の襲来、幽霊船との遭遇に駆動魔導器の故障等、数々の災難に遭いながらも、無事に航海を乗りきってノードポリカへ着く。
「ノードポリカ。やっと着いた…」
「なーに。もしかしてあれぐらいの航海で疲れたの?若いのに、だらしないわね」
揶揄するようにカウフマンからダメ出しされて、ウィスタリアは乾いた笑みを浮かべた。
するとトコトコとルウが近寄ってきて、カウフマンの足に体を擦り付ける。
「ニャア」
「もしかして、さよならを言いに来たの?ふふ…。またね、ルウ」
ルウを撫でるカウフマンの後ろに、眼鏡を掛けた痩身の初老の男性が近寄ってきた。白髪混じりの髪を邪魔にならないように整えて、また立派な髭を蓄えたその姿は、どこか紳士的な雰囲気がある。
「あ、こ、これはカウフマンさん、い、いつも、お、お世話になって、い、います」
「またどこかの遺跡発掘?首領自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」
「首領?……いっ」
カウフマンに脇腹を肘でどつかれて、ウィスタリアは呻く。
「い、遺跡発掘は、わ、私の生き甲斐、ですから」
カウフマンは男性に軽く笑みで答えながら、ウィスタリアの耳元で囁いた。
「遺構の門の首領・ラーギィよ。貴女も天を射る矢の人間なら、五大ギルドの首領の顔と名前ぐらい覚えておきなさい」
――名前は知ってたんだけど…。
だがウィスタリアは余計な事は言わず、素直に頷いて見せる。
ユーリ達もレイヴンから、男性が遺構の門の首領・ラーギィであると教えられていた。
「あ、あの…そ、そちらの、か、方は」
「この娘は天を射る矢に所属しているウィスタリアよ。ほら、貴女も挨拶なさい」
「あ、すみません。挨拶が遅れました。私ウィスタリアと言います。どうぞよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よ、よろしく、お願いします」
「まだ若いけど腕はいいし、あのドンも一目置いてるのよ」
「カウフマンさん、それは…」
「あら、本当の事よ。貴女もいい加減、自信を持ちなさい」
ウィスタリアにとっては自信とかそういう問題の話ではなかったが、その言葉からカウフマンが彼女を気にかけていることがわかる。
まるで姉が妹を思いやるように。
「で、では、な、仲間を待たせてお、おりますので、こ、これで」
丁寧に頭を下げられて、ウィスタリアも頭を下げた。幼い頃からギルドの人間を見てきたが、父親を含め、皆粗野で乱暴者ばかり。ラーギィのような礼儀正しい者は見たことがない。
だが好感の持てる人物だ。エステルがいい人そうだと言っていたが、ウィスタリアも同じ思いを抱いていた。
――ラーギィ、さんか。
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