七つ子の夢・U
□第三十話
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歯車の楼閣・ガスファロスト。
ダングレストの北東部にその塔はあった。
一体いつから建てられていたのかわからない。
吹き荒ぶ風に砂や小石が舞い、体にぶつかって痛かった。それに汗ばんだ肌に砂がまとわり付いて気持ちが悪い。
仕事が終わったら直ぐに風呂に入ろうと思いながら、ウィスタリアはリタを狙っていた小さな鳥型の魔物二匹をワイヤーで捕らえ、思い切り壁に叩きつけた。そしてリタが火炎の術式を発動させ、猛禽類に似た魔物――ホースラプターを撃退する。
「おっ……やってるな」
「ユーリ!」
ユーリの姿を見留めた途端、エステルは脱兎の如く彼に駆け寄って怪我はないか身体中を触る。
「おわっと……ちょっと、離れろって…」
「大丈夫ですか!?怪我はしてません?」
「何ともないって。心配しすぎ」
「……」
エステルが誰よりも先にユーリに駆け寄ってしまった為、ウィスタリアはルウの安否を聞くタイミングを逃してしまう。だが彼の背後から小さな白い塊が走ってきたのを見て、安堵と歓喜の表情を浮かべ名前を呼んだ。
「ルウ!」
真っ先に自分の下に駆け寄って来たルウをウィスタリアは抱き締める。
「良かった、無事だったんだね」
目の端に涙を浮かべ、腕の中の小さな存在を確かめるように頬を擦り寄せた。
だがルウは主人がどれだけ心配していたか全くわからないようで、目をぱちくりさせてきょとんとしている。
「お前は俺よりもルウが心配かよ」
耳に入ってきた恨めしそうな声にウィスタリアは顔を向けず、当然のように答えた。
「当たり前」
「お前な…」
幼なじみの冷たい反応に、ユーリがショックを受けたと感じたらしいエステルがすかさずフォローを入れた。
「大丈夫ですよ。ウィルも本当は、ユーリのことをとても心配してましたから」
本当はウィルは来てはいけなかったんですけど、ユーリの事が心配だからって、ドンに直接頼んで来させてもらったんです。
「そ、それは言わないやくそ…」
「成程ね。相変わらず素直じゃねえんだから」
つい口を滑らせてしまい、しまったと思いユーリを見れば、彼はにやにやと笑っていた。
ウィスタリアは何も言えなくなり、頬を朱に染めて「ふんっ」とそっぽを向く。
「ルウ、良かった。何処も怪我していないみたいね」
「ニャア」
リタの言葉を理解しているのかわからないが、ルウは答えるように鳴いた。彼女は微笑んでルウの頭を優しく撫でる。
ルウのおかげで皆の間に和やかな雰囲気が流れ、そこにレイヴンが芝居じみた動作を入れてユーリやルウを心配していたことを告げる。
「おっさんも心配で心配で」
「嘘つけ。っていうか、何でおっさんまでわざわざ来てんだ?」
「それが、聞いてくれよ。ドンがバルボスなんぞに舐められちゃいけねえとか言い出して、いい迷惑よ」
「そもそも、お前達、何処から入ってきてんだよ?」
「彼処から」
ウィスタリアが指差した先には、塔の外壁に備え付けられた長い梯子があった。
「しょうがないじゃん、表の扉が閉まってんだから」
呆れるユーリに抗議するようにカロルが言う。ふとレイヴンが目敏く、ユーリの後ろにいるクリティア族の女性を見付け、やや興奮した様子で彼女のことを尋ねる。
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