七つ子の夢・U

□第三十八話
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リタが兵装魔導器を海凶の爪に横流ししているのは、遺構の門ではないかと嫌疑をかけるが、それをカウフマンが完全に否定する。


温厚、真面目が遺構の門の売りだ。しかもその言葉を体現している好人物のラーギィが首領であるため、幸福の市場のカウフマンをはじめ、他のギルドからの信頼は厚い。


「じゃ、もう行くわね。フィエルティア号、大事に使ってあげて。駆動魔導器の交換とトクナガの移送は手配しておくわ」


「ああ」


「凛々の明星、頑張ってね」


「はい!」


元気で素直なカロルの返事に、カウフマンは彼を好ましげに見遣ってから、ウィスタリアに視線を移した。


「そうだ。ウィスタリア、その服貴女にあげるわ」


「服?…………あぁっ!」


カウフマンの言葉にウィスタリアは首を傾げたが、自分が今どんな姿なのか思い出して固まった。


短時間ではあるが、既に着ているのが当たり前になっていたので、違和感なく着たままになっていたが、黒猫のコスプレをしているのだ。
ノードポリカに着いたらすぐに脱ごうと決めていたのに、うっかり忘れていた。なんという不覚。


――しかもラーギィさんに…人に見られた……っ。


思い出すのは、ラーギィが自分の姿を見留めた時のあの驚いた表情。瞠目し、こちらを凝視する、あの信じられないものを見るようなラーギィの目。


今更ながらに恥ずかしさが込み上げ、身体中の血液が集まってきたと錯覚する程に顔が真っ赤になり熱くなる。


「嘘っ…マジっ…人に見られた……」


「あら、本当。しかも、遺構の門の首領に見られたのよね」


「あの…ウィル、大丈夫ですか?」


絶対に他人に見られたくなかったのに、結局は見られてしまったというあまりの衝撃と羞恥に、エステルの気遣いの言葉も耳に入らない。
固まったまま、動かないウィスタリアにカウフマンは付け加える。


「そのコスチュームも護衛してくれたお礼よ。大切にしてね」


じゃあね、といい笑顔でカウフマンは手を振って去っていく。ウィスタリアは心ここに在らずの様子で手を振り返した。
おろおろしながらエステルとカロルが彼女を見るが、ユーリはそっとしておけと言う。


「大丈夫か。おでんでも食って元気を出せ」


「まぁまぁ。見られちゃったもんはしょうがないから」


馴れ馴れしく肩を抱くレイヴンにウィスタリアはイラっとする。
自分がカウフマンにされたように、ウィスタリアは肘をレイヴンの脇腹に叩き込んだ。


「ぐぼぉっ」


奇妙な悲鳴を上げて咳き込むレイヴンを捨て置き、ウィスタリアは皆に背を向けた。


「私、ちょっと船に戻って着替えてくる」


「ベリウスに手紙届けるから早くな」


もう誰にも見られたくないのか、走って船に戻るウィスタリアの後を追ってルウもユーリ達から離れていった。


「ほーんと。仲が良いわよね」


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