アンケート小説置き場
□幼いなりに大好きだから
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「おい、綱吉は何処だ」
ボンゴレ本部を一回りして戻ってくるなり一言、ヴァリアーのボスであるザンザスはそう言った。
イタリア一、いや世界一のマフィア、ボンゴレの次期後継者、沢田綱吉。
だが本人はそんな事は知らない。
まだちゃんと喋れない程幼いため、父に連れられて母とたまにこうして本部に遊びに来るだけである。
……今のところは。
だが、その綱吉が来ていると聞いたのに、何処にもいない。
9代目の養子、ザンザスは息を切らす。
さすがはボンゴレ、仕事でも息1つ乱れない彼もさすがに隅々まで走り回っていると疲れてきた。
それでも、見つからない。
いつもの子供部屋、門外顧問用の離れ、9代目の私室……他にも捜せるだけ捜した。
だが見つからない。
イライラして戻ってきた彼を迎えたのは、これまたイライラを増幅させる存在でしかない部下のスクアーロだった。
「ボ、ボス……」
「綱吉は何処だ」
「つ…綱吉だぁ?知らねーぞぉ?」
「そうか」
まぁ、俺の知らない綱吉の情報をコイツが持っていてもムカつくが。
ザンザスはスクアーロを一殴りし、また綱吉捜しに向かった。
夕方。
ザンザスの怒りが頂点に達しそうになった時。
奈々の「ただいま〜」という明るい声と共に、綱吉が帰って来た。
「綱吉っ!!」
慌てて駆け寄り、その小さな身体を抱き上げる。
抱き上げられた本人は「なに?」とでも言いたそうな顔をしていた。
「出かけてたのか…」
今日1日、心配で心配で仕事も手につかなかった。
ストレスもありえない程たまった。
だが、こうして無事な姿を見るとそれまでの事が全て忘れられる。
「ざー、ただいまー」
まだ“ザンザス”とちゃんと発音出来ない綱吉。
ほとんどの人を名前の最初だけで呼んでいた。
スクアーロなら“すー”、ルッスーリアなら“るー”である。
ただ、ベルだけは“べりゅ”と舌足らずで言えた。
「ザンザス君、相当ツッ君が心配だったのね〜。ごめんなさいね、一言声をかけてから出かければ良かったわ」
奈々が申し訳なさそうに言う。
「いや…それより、何処へ行っていた?」
「それがね〜、ツッ君が買いたいものがあるって言うから」
「買いたいもの…?」
そういえば、奈々の手にはどこか店の袋が。
すると、腕の中の綱吉が嬉しそうに見上げてくる。
「ざーにね、ちょこ!!」
「チョコ…?」
何故。
チョコといえばチョコレートだろう。
だが別にチョコが特別好きなわけではないし、欲しいと言った覚えもない。
するとそれを察したのか、奈々が袋から買ってきたらしいチョコを取り出しながら話し出した。
「ツッ君ね〜、ザンザス君にチョコレートをプレゼントしたいってきかなくて…」
このチョコ、ツッ君が選んだのよ〜と嬉しそうに言う。
「何故チョコなんだ?」
「あら?今日何の日か知らないの?」
「今日…?」
「えぇ。今日はバレンタインデーよ」
「バレンタイン……」
ザンザスはそう繰り返す。
そして、そういえば今日は2月14日だと思い出した。
「それにしても綱吉、バレンタイン知ってたのか」
「てーび!!だいしゅき、あげる!!だから、ざーに!!」
ザンザスは全てを理解した。
つまり綱吉が言いたいのは、“テレビで、この日は大好きな人にチョコをあげると知り、だから自分にチョコをくれる”という事だ。
その瞬間、抱きしめる腕に力がこもった。
「っ綱吉…!!」
愛しくてたまらない。
今まで、こんな自分を大好きだと言ってくれる奴はいなかった。
だがこの幼い彼は言ってくれる。
まぁ、その前に自分が彼に惚れたのだが。
「奈々、しばらく綱吉を借りるぞ」
「えぇ、よろしくね」
そしてザンザスはあっという間に私室へ移動する。
綱吉が自分のために選んでくれたチョコも忘れずに持って。