小説1

□ぬくもり
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イタリアにあるボンゴレ本部。
ボンゴレといえば、マフィア界でその名を知らぬ者はいない。
伝統・格式・規模・・・その他諸々全てを兼ね備えたまさにマフィア界のトップ。
 
そんな場所で今、普段とは違う緊張した空気が漂っていた。
 
 
 
「・・・なぁ・・・あれって・・・」
 
「しっ、何も言うな」
 
下っ端が陰でコソコソと話す。
今、彼らは世にも珍しい光景を目にしていた。
 
 
ボンゴレにいる者なら・・・いや、裏の世界に通ずる者ならば誰もが知っている人物、独立暗殺部隊ヴァリアーのボスであるザンザス。
彼は9代目の息子だが血は繋がっていない。
それがわかっても、その時にはヴァリアーボスとして名があがっていたから、本人は特に気にする事もなかった。
そして、ボンゴレを継ぐ次期10代目候補は、たった1人になった。
 
 
話は戻り、このザンザス。
彼は冷酷非道で赤子さえ情けも容赦もかけずに消していくまさに鬼の化身とも謳われる者。
その彼が、今まさにそのイメージをぶち壊しにしていた。
・・・いや、壊れてはいないのかもしれない。
だからこそ、この光景に皆目を疑い、ある意味恐怖しているのだ。
 
本部の広く長い廊下を堂々と歩く姿はいつもと同じ。
黒い服も顔の傷も、トレードマークの羽飾りも同じ。
ただ、いつもは黒い革のパンツのポケットに入れている手は、今日は違う場所にあった。
というか何かを持っていた。
それは、片手で持てる程の小さなもの・・・いや、人。
 
 
誰からも恐れられるヴァリアーボスのザンザスが、小さな子供を抱いてボンゴレ本部の廊下を颯爽と歩いている。
 
 
それを見た誰もが、我が目を疑った。
しかも近くを通り過ぎると聞こえてくる会話が、これまたなんとも今度は我が耳を疑いたくなるような内容であって・・・。
 
 
「ざー、ママぁ・・・」
 
「大丈夫だ、すぐに会わせてやる」
 
そう言って優しく、優しく、子供の頭を撫でる。
その子供に目を向ければ、それはそれは可愛い、たぶん男の子だった。
淡い茶色のふわふわした髪、ぷくっとしたほっぺ、一旦見たら目を離せなくなる大きくつぶらな瞳。
その瞳も、今は不安で少し潤んでいた。
 
 
すれ違う誰もが振り返る光景。
だが本人達はそんな事は気にせずひたすら歩いていた。
 
 
 
 
ある廊下を曲がった時、「あ――――っ!!」という叫び声が聞こえた。
ビックリしてよく見ると、9代目と門外顧問と知らない女性がいた。
おそらくその女性は門外顧問の妻だろう。
 
腕の中で綱吉が「ママ!!」と言って降りようとしたので、素直にその場に降ろしてやる。
すると綱吉はよたよたと走り出し、奈々も思わず走り出す。
そしてお互い満面の笑みで抱き合う。
 
「ツッ君〜、ずいぶん捜したのよ〜?大丈夫だった?怪我とかしてなぁい?」
 
「うん!!ざーとすーと、いた!!」
 
すると奈々は「あらあら〜良かったわね〜」と朗らかに応えた。
 
 
そしてザンザスの存在に気づく。
 
「貴方がツッ君と一緒にいてくれたのかしら?」
 
「・・・あぁ」
 
「ありがとうね。この子が迷子になっても泣かないなんて初めてだわぁ。優しくしてくれたのね」
 
 
人に感謝されるなどほとんどないザンザス。
どう応えていいか困ってしまった。
 
そこへ幸か不幸かしわがれた声が聞こえた。
 
「ザンザスではないか。まさかおまえがツッ君と一緒にいるとはな。おぉ、やはりこの子の可愛さに凶悪最悪凶暴残酷なおまえでも拒絶できなかったのかのぅ」
 
・・・普通自分の子供にここまでの暴言ははかないだろう。
否定する気も起きない。
 
 
「ツ〜ナ〜っ」
 
野太いが猫なで声な気色の悪い声が聞こえ、門外顧問がドタドタと走ってきた。
 
「あ〜、心配したんだぞツナぁ。まさかあのザンザスと一緒にいようとは・・・。大丈夫だったか?何もされてないか?」
 
連れてきてやったのに失礼なものだ。
 
すると綱吉がこっちに戻ってきた。
 
 
「ざー」
 
こちらを見てニパッと笑う綱吉。
その笑顔を見ると、ついこちらの顔も緩んでしまう。
 
「良かったな、親に会えて」
 
「うん!!・・・あ、り、がとーっ」
 
この言葉は言いにくいのか、つっかえつっかえに礼を言われた。
 
それが愛しくて、しゃがんで綱吉の頭を優しく撫でてやった。
 
 
 
一方、そんな光景を信じられないというように見つめる2人。
もちろん9代目と家光である。
あのザンザスが子供相手に微笑んでしかも頭を優しく撫でている・・・!!
目をこすって再び見ても、その光景は変わらずで。
奈々は「ザンザス君って言うのね〜。ツッ君、いいお兄ちゃんが出来たみたいで嬉しそうだわぁ」と、自分も嬉しそうに微笑んでいた。
 
 
 


――――――――――――――――――――
長いのでわけました・・・。
次で終わります。
2007.11.17
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