小説1

□ぬくもり
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スクアーロは自らのボスであるザンザスの元へ向かっていた。
仕事の書類を渡すためだ。
だが、何やら嫌な予感を覚えた。
そうこう迷っているうちに、ザンザスの仕事部屋の前まで来てしまった。
自分には超直感など持ち合わせてはいないが、それでもわかる。
今この扉を開けたら、何かとんでもないものを見てしまいそうな気がする・・・!!
しかしこの書類は今日中に目を通してもらわなければ困る。
仕事熱心なスクアーロは、勇気を出して控えめにドアをノックした。
 
「・・・・・・」
 
返事がない。
勝手に開けると後が怖いので躊躇ったが、別段殺気も感じられなかったのでドアノブに手をかけた。
静かに、慎重に部屋の中へ入る。
 
だが、いつもいる真正面の机にはいなかった。
もしかしたら留守なのかと思いかけたが、ふと横を見ると、いた。
ソファで寝ていた。
珍しい事もあるもんだと思う。
普段、ザンザスは少しの音や気配でも目を覚ますため、彼が寝ている所など滅多にお目にかかれないのだ。
その彼が、そっと開けたとはいえドアの音にも気づかないとは・・・。
そうそうありえないが、もしかしたら具合が悪いのかと思いソファに近づいてみる。
もちろん、起こしたら自分の命が危ないのでそっと。
 

覗いた先には・・・・・・もう1人、いた。
すごく小さいのが。
いつもの癖で濁音だらけの叫びを発しそうになったが、なんとか堪えられた。
その小さいもの・・・もとい子供はザンザスの腹の上ですやすやと眠っている。
ヴァリアーのボスと子供。
かなりありえない光景だった。
 


どうしようか迷っていると、子供が目を覚ました。
「う〜」やら「あ〜」やら何か唸って、目を擦りながらザンザスの腹の上に座る。
そしてすぐ傍で固まっているスクアーロに気づいた。

「・・・だ〜れ?」

日本語だった。
スクアーロも一応日本語はわかる。

「俺はスペルビ・スクアーロだぁ」

「すー?」

「いや、スペルビ・・・まぁいいかぁ。ところでおまえは?」

 

「沢田家光の息子だ」

「う”ぶほあぁぁ?!!」

いきなり低音が聞こえてきて、思わずいつも以上の奇声が出る。

「ボボボスっ、起きてたのかぁ」

「テメェ・・・他言したらかっ消すぞ」

もちろん“何が”とは言わなくてもわかるだろう。
 
 


「―――で、こいつがあの門外顧問のガキだってぇ?」

「あぁ。名前は忘れたがな」

「確か沢田綱吉だろ」

・・・なるほど、それで“ちゅなよち”か。
ソファに座って話しているのだが、綱吉は何故かザンザスから離れようとせず、それどころかギュ〜っとしがみついていた。
そしてそれ以上に不思議なのは、しがみつかれているザンザス本人が全くといっていい程嫌がっていないのだ。
いつもなら話しかけるだけで射殺されそうな目で睨まれ、仕事の時だって子供や赤ん坊にすら容赦しなかった。
それが今は、足蹴にしないどころか綱吉の行動を全て許している。
綱吉も綱吉で、鬼や悪魔、冷酷非道な死神とまで敬称されるザンザスに見事に懐いている。
スクアーロは自分の脳内の容量を越える目の前の光景にパニックになるばかりだった。
 
 

ふと、綱吉がザンザスにくっついたまま辺りをキョロキョロし始めた。」

「ママぁ〜・・・」

どうやら母親を探しているらしい。

「おいカス、こいつの母親はどうした」

「沢田・・・奈々かぁ。たぶん家光といると思うが・・・とりあえずこの屋敷のどっかにはいんだろ」

門外顧問の妻の名まで覚えているとは・・・カスだがそれほど馬鹿ではないのか?と少しだけ思い直したザンザスだった。
そんな会話の間にも綱吉は母親を探し、今にも泣きそうになっている。

「ママぁ・・・・・・」

大きな目からは涙がポロポロと零れ落ちる。
 
「う"お"お"お"お"い、どうすんだぁ、子守りなんてした事ねぇぞぉ?!」

そんな慌てるスクアーロの目の前で、ザンザスは何とも意外な行動に出た。
泣いている綱吉の頭を優しく撫で始めたのだ。
これには先程以上にスクアーロは驚いた。
まるで慰めるかのように、優しく、優しく撫でていた。
きっと、彼が少しでも力を入れればこんな子供ひとたまりもないだろう。
そしてあろうことか「心配すんな。親の元へ連れてってやるから」と優しく、優しく言ったのだ。

スクアーロはもう顎が外れるかと思うほど口をあんぐりと開けて絶句していた。
彼のこんな優しい行動や声など知らないしありえないと思っていたからだ。



綱吉は次第に泣き止み、不思議そうに目の前のザンザスを見上げていた。
そして今度は思いっきりニパッと笑った。
それは周りに花が飛んでもおかしくないほどの笑顔だった。
一瞬ドキッとしたスクアーロだが、次の瞬間、一気に青ざめた。
その綱吉の笑顔を間近で見ていたザンザスの顔が一瞬、本当に一瞬、ものすごく緩んだからだ。
いつもの仏頂面も怖いが、それの比ではなかった。
 

そんなアホ面なスクアーロをよそに、ザンザスは綱吉を抱き上げ立ち上がった。

「う”お”っ?!ボスっ?!」

我に返ったスクアーロ。
何にビックリって、ザンザスが綱吉をまたまた優しく抱き上げたことだ。
摘むのではなく、きちんと抱き上げる。
それも優しく。
先程から使っているが、優しいなんて言葉はきっと世界一似合わない男である。
 


と、綱吉が腕の中でじっとザンザスを見ている。

「・・・何だ?」

「おなまえ・・・」

「なまえ?」

すると綱吉はスクアーロを指差して「すー」と言った。

「“すー”?」

「あ”ぁ”、それたぶん俺の事だぁ。さっき名前を言ったんだが・・・どうやらかなり省略して“すー”で覚えられたらしいぜぇ」


「・・・俺の名前を・・・聞いてんのか?」

「んっ」

思いっきり頷く綱吉。
そういえば名乗っていなかったと思い、そしてザンザスはこの子供が自分よりスクアーロの名前を先に覚えた事に何故か腹が立った。
 

「ザンザス、だ」

「ざー?」

どうやら言いづらかったり長かったりすると言えないらしい。
ザンザスはフッと笑い、「あぁ、それでいい」と言いまた綱吉の頭を撫でる。
その笑いが、いつもの見下したり何かを企んでいるような笑みではなく、高笑いでもなく、本当に黒さのない笑いだったものだから、逆にある意味恐ろしくなったスクアーロ。


そんな青ざめた彼を置いて、ザンザスは綱吉を連れてさっさと部屋を出て行こうとする。

「どっ・・・何処行く気だぁボス?!」

仮にもヴァリアーのボス。
そんな子供を抱いていては威厳が・・・いや、それより違う意味で恐れられるかもしれない。
これで街中に行ったなら、間違いなく人攫いか子供誘拐で捕まるだろう。
 

「こいつの母親を探してくる」

そう言って出て行った。
 


「・・・・・・・・・」

残されたスクアーロは、ただただ閉められたドアを見つめるしかなかった。
 
 
 
 
 
 
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あれぇ?まだツッ君の名前呼んでないぞ?ザンザス。
ツナは呼んだけど(あれを呼んだといえるのか)
2007.11.02
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