小説1
□ぬくもり
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「びえぇぇぇぇ〜〜〜っ」
「??!!」
部屋で書類の山を片付けていたら、ドアの向こうから突然子供の泣き声が聞こえてきた。
いやいや、ありえないだろ普通。
仮にもここはマフィア界の頂点に立つボンゴレの本部。
子供などいるはずがない。
勘違いだと自分に言い聞かせて、ザンザスはまた書類の山にとりかかった。
「びえぇぇぇぇ〜〜〜っっぐずっぐずっ・・・びゃぁぁぁ〜〜〜っ」
「・・・・・・・・・」
NOT空耳。明らかに間違いなくこのドアの向こう側に子供がいる。しかも大泣きした。
「・・・しょうがねーな」
こんな所で泣かれては仕事に集中出来ない。
誰かが来そうな気配もない。
・・・そういえば、いつもだったら部屋の近くまで誰かが来たらすぐに気づくはずなのに、この子供には全く気づかなかった。
とりあえず使用人にでも渡せばどうにかなるだろうと思い、ザンザスは立ち上がってドアを開けた。
――――バンッ
「ふぶっ」
「あ”」
しまった。いつもの癖で思いきりドアを開け放ってしまった。
子供がドアにぶつかり転がる。
大体このドアが・・・いや9代目が悪い。
ドアは普通手前に引くものだ。今までずっとそうだった。
だが数年前に建てられたこの一角は、何故かドアが外側に開くのだ。ジャッポーネ式らしいのだが、最初のうちはなかなか慣れなかった。
「ふえぇぇぇ〜〜〜」
転がった先ではまた子供が泣いていた。
おでこを押さえている所を見ると、そこをぶつけたらしい。
サイズからして2〜3歳だろうか。
「おい、おまえ一体どこから・・・・・・うおっ?!」
「ふいぃぃぃぃ〜〜」
子供の首根っこを捕まえるより早く、いきなり足に突進された。
そして右足に抱きつき泣き始める。
「おい・・・」
泣きつく相手が間違っていないか。
子供は今、そのおでこの怪我の原因であるザンザスにしがみついているのだ。
ちょっと足を揺らしてみたが、しっかりと掴まれていて離れない。
しょうがなくザンザスは子供を足にくっつけたまま部屋へもどったのだった。
ソファに座った時には、子供は涙こそ止まってはいなかったものの、泣き喚く事はなかった。
「・・・で、誰だてめぇは。親はどうした」
そう言いながら、一応子供の前髪をかきわけておでこを見る。先程ぶつけていたが、ほんの少し赤くなっているだけで特に心配はないようだった。
子供の扱いなど知らないため、とりあえず頭を撫でてみる。
確かこの前テレビで親が子供にこうやっていた気がする。
すると子供は初めて顔を上げると、不思議そうにこちらを見た。
よく見るとアジア系の顔をしている。少なくともイタリア人ではないらしい。
もしかしたらイタリア語が通じていないのだろうか。
試しにジャッポーネ、日本語で話してみる。アジア系では日本語と中国語と韓国語しか話せない。このどれかが通じる事を願うしかない。
「迷子か?」
すると今度は通じたのか、大きく首を縦に振った。
どうやら日本人らしい。それにしては色素の薄い髪と目だが。
だが普通に考えて、迷子になってここまで来る事はまずない。というかボンゴレのセキュリティーは半端ではない為、どんなプロでも侵入が難しいとされている。
となると内部の関係者か親族か・・・。
「ん?」
考え事をしていると、子供が自分の足をよじよじと登ってきた。
そして膝の上まで来ると、達成感からかにっこり笑ってちょこんと座った。
本格的に困ってしまったザンザス。
子供などほとんど触った事がないし、触られた事もなかった。
皆、顔を見るだけで恐れて逃げていってしまうのだ。
だがこの子供、全く恐怖心がないらしい。目があってもニコッと笑いかけられた。
試しにその子供の手を触ってみる。
ふにふにしていて柔らかい。手を広げても、自分の手のひら程しかない。
そういえば名前を聞いていなかった。聞けばもしかしたら親か関係者がわかるかもしれない。
「・・・おまえ、名前は?」
「チュナぁ」
「“チュナ”?」
「ん〜ん、チュナ!!」
「・・・?」
どう聞いてもチュナにしか聞こえない。まだちゃんと喋れないらしい。
「名字は?」
「ふ?」
もしかして名前しか言えないのだろうか。いや、名前ですらちゃんと言えていないが。
「上の名前だ」
確か日本人は姓は先だったと思う。
「さぁ〜だ、ちゅなよち」
・・・“さぁ〜だ”?何だか聞いたことがあるような気が・・・。
「ってまさか、あの門外顧問の“沢田”か?」
いやまさか、あれからこれが・・・?
だが沢田という言葉に反応し、子供は「さぁ〜ださぁ〜だっ」と言う。
そういえば今、めずらしく門外顧問がしばらくここにいると言っていた。
もしかして本当に・・・
「沢田家光のガキか・・・?」
「パパ!!」
「・・・・・・」
どうやら本当にそうらしい。
突然変異か?いや、母親似という可能性もある。
だがこれでここにいる事も納得がいった。
そうこう考えていると、子供は自分の親を知る者がいて安心したのか、きゃっきゃっと喜んでいた。
そして・・・
「うあ?!」
子供の手に触れていたザンザスの指を・・・・・・口に入れた。
「ちょっ、おいっ」
どうにか抜こうとするが、抜けない。
しっかりと人差し指を両手で掴まれ、放そうとしない。
意外に強い子供の力。
しょうがないので好きにさせておくことにした。
後で誰かに門外顧問の元へ届けさせればいい。
「ん〜・・・・・・」
しばらくすると、子供がこしこしと目をこすり始めた。眠いらしい。
どうすればいいのかわからないザンザス。
というかここで寝られても困る。
そう思った時、子供の頭がこてんと前に倒れてザンザスの胸板で止まった。
・・・すでに膝の上で寝ていた。
「・・・・・・」
身動きがとれない。
少しくらいは動かしても平気か?
恐る恐るもぞもぞと両足をソファの上に乗せる。つまりソファに寝転がった状態だ。
子供は腹の上ですやすやと眠っている。
自分も寝てしまおうと思ったのだ。あの書類の山のせいで昨日はほぼ徹夜だったのだから少しくらいは休んだほうがいいだろう。
シャツの上からでもわかる子供の体温。
他人に触れられるのは嫌いだが、何故だかこいつは傍にいても触っても触られても、全く嫌悪感は抱かなかった。
それどころかむしろ心地よい。
不思議な感覚だった。
今までにないくらい落ち着くとともに、穏やかな気持ちになる。
自分らしくないが。
そんな感想を抱きながら、ザンザスは子供をお腹の上に乗せたまま自分も眠りについたのだった。
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早くザンザスにツナの名前を呼ばせたい・・・。
2007.9.16