小説1

□俺と私と10代目
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「・・・どうしよう」
 
一人っ子に独り言が多くなるというのは本当なのかもしれない。
話し相手がいないからこそ、何かを喋りたいのだ。
この無音をどうにかしたいのだ。
だから、どうでもいい事でも音にする。
 
というか・・・
 
「早く買い物に行かないとっ」
 
 
例のボタンの前まで来た。
ただ押すだけなのにすごく緊張する。
しかも、だれが来るかもわからない。
出来ればよく世話をしてくれたスクアーロがいいなぁと思う。
というか、あと知っている中でいうとほんの少しだけ会ったザンザスという人しかいない。
 
 
 
「お・・・押すよ・・・」
 
誰にともなく、たぶん自分自身にそう言って震える手でボタンを押した。
 
 
―――カチッ
 
 
 
「・・・・・・」
 
ブザーなどが鳴ると思っていた綱吉は思わず拍子抜けした。
何も鳴らない。
だがどこかでそれをキャッチしたらしく、バタバタと足音がこちらに向かってくるのが聞こえてきた。
 
バンッと勢いよく扉が開いた。
そこに現れたのは・・・
 
 
「ザンザス・・・さん・・・」
 
 
少し息を切らしたザンザスがいた。
 
 
 
「どうした」
 
そう聞かれて、何と言おうか全く考えていなかった綱吉は焦ってしまった。
まさかこんなに早く来るとは思わなかったのだ。
 
「えと・・・すみません、そこまで急ぎでもないんですけど、誰に言っていいのかわからなかったので・・・」
 
とりあえず言い訳めいた事を言ってみる。
 
 
「で、どうした」
 
ザンザスは大して怒っても気にもしていない様子でもう一度尋ねた。
 
「あ、の・・・買い物に・・・行かせてもらえないでしょうか・・・?」
 
恐る恐る綱吉は切り出す。
 
「買い物?」
 
「はい・・・」
 
心なしかザンザスの顔が強張った気がした。
 
 
「・・・駄目だ」
 
やはり却下された。
 
「何故ですか?」
 
「おまえの命を狙っている奴らの居場所がまだ掴めてねぇ」
 
つまり、まだ綱吉には命の危険があるって事だ。
 
「必要なものは買ってきてやる。何が足りない?」
 
「・・・・・・・・・」
 
言えない。
例え性別がバレたとしても、こればっかりは言えない。
同性になら問題もないのだが、異性ともなれば絶対無理だ。
 
 
「どうした?」
 
黙ってしまった綱吉を不思議に思い、ザンザスはツナの顔を覗き込む。
 
「ふわっ?!」
 
考え事をしていた綱吉は、いきなりザンザスの顔が目の前にきて思わず一歩退いてしまった。
一瞬驚いたような顔をしたザンザスも、次にはいつもの無表情に戻っていた。
 
 
「あのっ」
 
「ん?」
 
「女の人は・・・いないんですか・・・?」
 
無難にそう尋ねてみた。
女同士ならば話しやすいし、何かと力になってくれる気がした。
だがそんな期待は一気に裏切られる。
 
「ここに女はいない。ヴァリアーの本部だからな。ボンゴレの方には結構いるとは思うが・・・。何だ?俺には言えない事か」
 
「・・・はい・・・」
 
彼から見れば自分は男なのだからおかしな話だが、そんな事に構っている場合ではない。
少し怖いが、綱吉は思いきってザンザスを真っ直ぐに見て言った。
 
 
「買い物に行かせてくれるか、女の人を呼んでくれるかして下さい!!」
 
突然強気になった綱吉にまたまたほんの少し驚くザンザス。
だが彼は綱吉が女だと知っているので、何かあるんだろうと察していた。
 
 
「わかった。門外顧問チームに頼んでみよう。おまえの父親の部下だ、それでいいか?」
 
それを聞いて綱吉は見るからに嬉しそうな顔をして「はいっ、ありがとうございます!!」と笑顔で言った。
その笑顔にザンザスが言葉を失っていた事は、ほっとして安心している綱吉には気づかれなかった。
 
 
 
ザンザスがまた部屋を出て行こうとした時、綱吉はふと言い忘れていた事を思い出した。
 
「あの・・・」
 
「何だ」
 
呼び止めたら振り返ってくれた。
 
「えと・・・わがまま言ってすみませんでした。俺の事を思ってこうやって守ってくれてるんですよね。なのに無理言って・・・。本当に助かりますっ」
 
今度こそザンザスは目を見開いて固まった。
数秒、いやほんの一瞬だろうか、そうしていて、ザンザスはすぐに我を取り戻し「なるべく早く呼んでやるから待ってろ」と言って部屋を出て行った。
 
 
 
 
「ザンザスさんも優しい人だ。見た目はやっぱりちょっと怖いけど・・・」
 
少し上機嫌で、綱吉はその父の部下とやらを待つことにしたのだった。
 
 
 
 
 
 











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やっとザンザスと綱吉の会話が・・・っ。
何だかバカップルになりそうな予感(笑)
2007.10.10
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