小説1
□俺と私と10代目
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「・・・・・・」
しばらく室内が沈黙に包まれた。
それからザンザスがまさかという顔をする。
「何かの間違いじゃねぇのかカス。門外顧問自らも息子だと言っていたし書類にも性別は男だったぞ。しかも綱吉っていやぁ向こうでは男の名なんだろ」
「間違いじゃねぇ。俺もあの時までは信じられなかったんだが・・・運ぼうと抱き上げた時にその・・・胸が当たった。あれは明らかに女の胸だったぞぉ。念のため医者にも聞いたが、間違いなく女だってよ」
「・・・違う奴を連れてきた可能性は」
「ねぇな。顔は写真通りだったし、どうやら胸にサラシを巻いていたらしい。男の制服着てたしな。男として育てられていた、あるいは男として生活していたらしいぞぉ」
「・・・・・・」
今度こそ本当に驚くザンザス。
10代目候補が女だなんて疑いもしなかった。
ボスが男でなくてはいけないという事はない。
だがやはり男の方が威厳やら何やらで有利なのは確実だ。
もしかしたらそれを思って、後々大変にならないように門外顧問は沢田綱吉を男として今まで隠し通していたのかもしれない。
実際周りは見事に騙された。自分さえも。
「沢田綱吉が起きたら知らせろ」
それだけ言うと、ザンザスはスクアーロを部屋から追い出した。
「ん・・・・・・」
医務室のベッドの布団の中で綱吉は目覚めた。
「・・・?」
上半身だけ起こして周りを見渡すが、全く覚えのない部屋だった。
なんだか学校の保健室に雰囲気が似ていた。
「起きたかぁ」
その声と同時にドアが開いて1人の男が入ってきた。
銀色の長髪に黒い服、語尾が独特な話し方。
それと共に、気を失う前の出来事が一瞬で脳裏に蘇ってきた。
「ひっ・・・」
思わず布団を掴み身体を丸める。
どうか夢であってほしい。
だがそれを目の前の人物の存在が否定する。
彼は間違いなく、母を運んでいった男だ。
「気分はどうだぁ」
「・・・えと・・・大丈夫です・・・・・・あの、ありがとう・・・ございます・・・」
きちんとベッドに寝かされていたし、一応助けてくれたらしい。
お礼を言った方がいいだろうと思ったので戸惑いながらも言っておく。
「ボスを呼んでくる。少し待ってろぉ」
そう言って引き返そうとするので、綱吉は慌てて呼び止める。
「あのっ、母さんは・・・?それと、ここは何処なんですか?」
「・・・・・・」
男はしばらく黙っていたが、ため息をひとつつくと開きかけたドアを閉めて戻ってきた。
「・・・沢田奈々は、おまえが見た通りだぁ」
「っ・・・・・・」
「んでここはまだ日本だぁ」
「まだ・・・?」
「門外顧問も今は行方不明だから連絡が取れねぇ」
「・・・?」
質問には律儀に答えてくれているようだが、いまいちよくわからない。
門外顧問というのは何なのだろう。
だが男はさっさと部屋を出て行こうとする。
「あのっ、もうひとつだけいいですか?」
「何だぁ?」
「あなたの名前、聞いてもいいですか?」
自分の名前は言わなくてもいいだろう。フルネームで呼ばれたし。
「スペルビ・スクアーロ」
「スペルビ・・・?」
やはり日本人ではないらしい。
「スクアーロでいい、沢田綱吉」
そう言ってドアを閉めようとする。
その間際、綱吉も「俺のことも名前でいいですからっ」と叫んでいた。
その瞬間、男・・・スクアーロが少し笑った気がした。
「いい人・・・だよね。ちゃんと答えてくれたし、こんな良さそうなベッドに運んでくれたみたいだし・・・」
そう呟いて、綱吉はそのスクアーロが言っていたボスとやらをおとなしく待つことにした。
いろいろ聞くのはそれからでも遅くはない。
ここの事やその門外顧問というもの、そして母のことも―――・・・。
1人になると無償に寂しくなった。
思わず布団がかかっている膝に顔をうずめる。
肌触りのいい感触が、少しだけ安心できた。
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ザンツナです、しつこいですが。次こそは・・・。
2007.9.24