小説1

□俺と私と10代目
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ありえない。
 
 
ありえないよ。
 
 
 
 
綱吉はその場にへたりこんだ。
壁に手をついていないと、上半身まで床とくっついてしまいそうだった。
 
 
早く己の母の元へ行かなくてはいけないのに、足が動かない。声が出ない。
それでも行かなければと思い、なんとか床を這いずってでも近づこうとする。
 
 
「かあ・・・さん・・・・・・」
 
 
動く腕でなんとか進む。
 
 
 
 
あと少し――
 

あと少し――――
 
 
 
 
 
「へ?」
 
 
いきなり母の身体が浮く。
指先が微かに母の髪に触れた。
だが肌の体温を感じることが出来ずに離れていった。
やっとの思いで頭だけを上にあげる。
見上げてみると、誰かが母を抱えていた。
 
 
 
「かあ・・・さん・・・・・・」
 
 
母を取り戻さねば。
 
でも足が動かない。
 
腕が上がらない。
 
 
涙が止まらない・・・。
 
 
 
 
 
「安心しろぉ、運ぶだけだぁ」
 
独特の喋り方。
 
安心しろ?こんな時に?
 
救急車が来ているとは思えない。音もたぶん聞こえていなかったし。
 
―――いや、本当はわかってる。
 
一目見た時から気づいてた。
 
もう間に合わないって。
 
目の前にいるのは母の抜け殻だって。
 
もう自分に笑いかけてくれる事はないんだって。
 
 
 
 
 
 
「う"お"お"お"い!!おまえ、沢田綱吉かぁ?」
 
「っ・・・」
 
一瞬息が詰まる。
もしかしたら犯人はこの人で、自分まで母と同じ様にされてしまうのか・・・。
 
いや、それでもいい。
どうせなら一緒に連れて行ってほしい。
ここで頷いたら、この人は連れて行ってくれるだろうか。
母の、母さんの元へ――・・・。
 
 
 
 
 
 
 
「そう・・・です・・・。俺・・・沢田、綱吉、です・・・」
 
改めて見ると、その男は長い銀髪に全身黒の服、窓から差し込む夕日の光が逆光になり顔はわからなかった。
声を聞く限りでは男のようだ。
 
 
てっきり刃物でも振り上げられるかと思ったのに、男は母を抱えたまま玄関へ向かった。
 
 
「かあ、さん・・・!!」
 
腕は上がるようになった。
だが足が・・・腰が上がらない。
母を取り戻したいのに。取り戻さなければいけないのに。
 
男はこちらを一瞥すると、再び歩き始めた。
そして無情にも、家の玄関のドアの閉まる音が聞こえた。
 
 
 
 
 
数分だろうか、もっと長かったような短かったような、よくわからないが、男が戻ってきた。
その手に母はいない。
 
 
 
「立てるかぁ?」
 
そう言って手を差し出された。
驚いて見上げると、今度はちゃんと顔が見えた。
鋭い目つきだった。
だが不思議と怖いとは思わなかった。
涙ではっきりとはわからないが、日本人ではない気がした。
 
思わず差し出された手を取るが、その力を借りても立てない。
何故だかまた涙が流れてきた。
 
男は、綱吉が立てないとわかると手を引っ込めた。
そして次の瞬間、綱吉を抱き上げた。
 
「へ?何?!」
 
もう暴れる気力も体力もない。
 
 
「安心しろ」
 
また言われた。
何をどう安心すればいいというのか。
 
 
 
 
「沢田奈々はちゃんと葬る。少し時間はかかるが葬式も用意させる」
 
「・・・?」
 
わけがわからない。
 
もしかして、犯人では・・・ない・・・?
 
 
 
「すまないと思ってる」
 
「・・・・・・」
 
「予想はしてたのに間に合わなかった。・・・だがおまえだけでも無事でよかった」
 
 
「・・・母さんを・・・助けて、くれようと・・・した、の・・・?」
 
「あぁ。だが結果がこれだぁ」
 
「そっ・・・か・・・・・・」
 
「お、おい!!」
 
 
緊張が一気に解けた綱吉は、そのまま男の腕の中で意識を手放していた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――
※ザンツナです。意外に長い・・・。
2007.9.20
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