小説1
□俺と私と10代目
11ページ/15ページ
翌日、綱吉はいつもの元気を取り戻していた。
恐る恐る訪ねて来たルッスーリア達とも明るく接していた。
まだよくわからないし納得もしきれていないが、いつまでもうじうじしていても始まらない。
周りの人達もこんなに優しい。
ルッスーリア達も、裏の世界には今までいなかった種類の人間に興味を持っていた。
そして彼らも、実感出来るくらい綱吉に癒されていた。
今日もそんなこんなで、仕事のないマーモンとベルが遊びに来ていた。
「じゃあ次マーモンの番ね」
「ちょっと綱吉〜、さっきから勝ち続けじゃん?何で?」
「さぁ・・・俺、カードゲームとかそんなに得意でもなかった気がするけど・・・何だかこっちに来てから勘がいいんだよね」
そう、不思議。
いろんな事がなんとなく予想出来るというか、それは本当になんとなくなんだけど、妙に確信を持っている感じ。
夜。
いつもこの時間にはザンザスが訪ねていた。
仕事が忙しいため少ししかいないが、それでも毎日来てくれる。
そして綱吉は、その奇妙な勘の事を話してみた。
「それは超直感だ」
「超・・・直感・・・?」
「ボンゴレに代々伝わる能力・・・みたいなもんか。おまえは直系だから特別それが強いんだろ」
「へぇ〜・・・」
彼が言うには、イタリアに来ていろいろ知って、それで隠れていた能力が開花したんじゃないか、と。
綱吉は、ただ頷く事しか出来なかった。
そして、本当に自分はボンゴレの後継者候補なんだと、改めて実感した。
別に10代目になるのが嫌なんじゃない。
でも、自分の願いは出来るだけ平凡に過ごす事。
しかも今まで普通の生活をしてきたのに、いきなりマフィアのボスになれなんて無茶にも程がある。
ただ、自分が日本に戻れば友達が傷つく。
きっと、10代目になる事が1番いい道なんだ。
ボンゴレのためにも、日本にいる友達のためにも。
だったら、覚悟を決めなくてはいけない。
自分のせいで大切な人達が傷つくのはもう見たくない。
スクアーロやルッスーリア、ベルにマーモン、そしてオレガノさん、いつの間にかみんなも大切な人達の中に入っていた。
もちろん、ザンザスさんも。
焦らなくていいって言われたけど、決めるなら早い方がいいのはわかってる。
これからきっと沢山勉強しなきゃいけないだろう。
苦手な語学だって歴史だって。
きっと戦闘能力も必要になってくるだろう。
覚悟は出来ている。
次の日の夜、綱吉はザンザスにボンゴレ10代目になる事を話した。
「・・・・・・本当にいいのか・・・?」
「はい。だって、もう普通の生活には戻れそうにないですし。だったら、俺は大切な人達を守りたいです」
「・・・・・・そうか」
みんな、自分を10代目にしたそうだったからもっと喜んでくれるかと思っていた。
なのに、ザンザスさんはあまり嬉しそうじゃない。
むしろ、気に入らないようだった。
でも他に候補はもういない。
自分がやるしかないのだ。
だがザンザスは、別に綱吉が10代目になる事に不満がある訳ではなかった。
ただ、この幼く小さな少女に汚く重いものを背負わせる事に迷いがあるのだ。
今すぐボスになるわけではない。
老いぼれもまだ生きているのだから。
ただ、やはりいつかは10代目になってしまうのだ。
きっと誰よりも辛い思いをするだろう。
それをどこまで軽減出来るか。
どこまで俺が背負ってやれるか。
どこまで、この少女を守れるか・・・。
ザンザスは顔を上げ、じっと綱吉を見つめる。
そして言った。
「俺はどんな事があってもおまえを守る。守ってみせる。だから、辛かったり耐えられなくなったりしたらすぐに言え。無理にマフィアになんてなるもんじゃない」
「ザンザスさん・・・」
嬉しかった。
肩の荷が下りた気がした。
でも、やってみせる。10代目になってみせる。
大切な人達のためにも。
守ると言ってくれた彼のためにも。
綱吉は穏やかに微笑み、彼の深紅の瞳を見つめた。
「ありがとうございます。覚悟は出来てます。よろしくお願いします」
その表情は、さながら気品に溢れた女王のようにも見えた。
だがその直後、いつもの無邪気な笑顔に戻る。
ザンザスはその眩しさに目を細めた。
・・・この少女のこんな笑顔を、一体いつまで見られるのだろう。
いつまで、守れるのだろう。
いや、守ってみせる。
何があっても、必ず。
―――――――――――――――――――
ついに覚悟を決めた綱吉。
えっと・・・明るくしたいです。
2008.02.20