小説1

□俺と私と10代目
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「・・・・・・・・・」
 
綱吉は思わずその奇怪な集団を凝視してしまった。
全員見事に、今まで見た事のない種類の人間だった。
 
 
 
「・・・おいテメェら」
 
ザンザスは立ち上がると、まだ床に転がっている2人の前に腕を組んで仁王立ちし、睨みつける。
ふよふよ浮かんでいた赤ん坊も、その威圧感に圧されてか床に下りた。
 
 
「ボ・・・ボス、これは違うのよ?何かその・・・ほら、あの門外顧問の息子さんってどんな子かな、なんて・・・」
 
「そうそう、ちょっと気になっただけで・・・」
 
「もしかして、結構大事な話とかしてた・・・?」
 
 
この怯えよう、半端じゃない。
だが、ザンザスと同じような黒い隊服のようなものを着ているので、きっと彼の部下なのだろう。
そう結論づけた綱吉は、立ち上がりその怪しい3人の前まで来た。
やっと立った2人は、結構大きかった。特にサングラスをかけた方。
きっと何年たっても、自分はこんなに背は高くならないと思う。
金髪の少年も、低くはない。少なくとも自分よりは高い。
 
綱吉は彼らを見上げ、ガバッと頭を下げた。
 
「あのっ、沢田綱吉です。沢田家光の息子です。えと・・・はじめまして」
 
丁寧に頭を下げる綱吉に、少しいたずらをしようと考えていた3人はその企みを打ち消した。
 
 
「っ可愛いわぁ〜〜っ」
 
サングラス・・・いや、オカマ口調の方が印象強い。
そのオカマは突然、綱吉に抱きついてきた。
 
「ふぇ?!」
 
抱きつかれた綱吉はただあたふたするしかない。
 
「私、ルッスーリアっていうの、よろしくね〜」
 
「は・・・はい」
 
 
「・・・・・・ん?」
 
 
何かを見つけたらしいルッスーリア。
尋ねようとしたところで、ザンザスに無理矢理引き剥がされた。
 
「ボス、この子・・・」
 
「沢田家光の1人息子だ」
 
「・・・わかったわ」
 
どうやらルッスーリアは綱吉に胸があると気づき、女性だとわかったらしい。
だが、ザンザスがそれを言うのをとめた。
何かあるのだとわかったらしいルッスーリアは、それに従う。
 
 
「綱吉ってんだ〜。俺ね、ベルフェゴール。王子って呼んでいいよ。あ、綱吉なら特別にベルって呼んでもいいよ〜」
 
金髪少年もといベルは、ししししっと独特の笑い方をして自己紹介をする。
確かに笑っているのだが、肝心の目が見えない。
長すぎる前髪が顔の半分以上を覆っていた。
 
 
「僕はマーモン。姿は赤ん坊だけど馬鹿にしないでよ。よろしくね、綱吉」
 
こちらも目が見えない。
黒いフードでしっかりと隠されていた。
 
 
「よろしくお願いします、ルッスーリアさん、ベルさん、マーモン」
 
するとそんな綱吉の言葉にマーモンが眉をひそめる。
 
「ちょっと綱吉、何で僕だけ呼び捨て?」
 
「あ、ごめんなさい・・・つい・・・」
 
「ちょっとマーモン、意地悪ねぇ〜。ツナちゃん、私の事も呼び捨てでいいわよっ」
 
「特別に王子もいいよ」
 
 
ザンザス完全無視で仲良しワールドを広げる4人。
それに痺れを切らしたのは、やはり仲間外れにされたザンザス本人だった。
 
「おいテメェら、用が済んだんなら出て行け。まだコイツと話は終わってねぇ」
 
というか、綱吉との話に邪魔が入ったのが許せないというような感じだが。
 
 
「それにしてもボス、この子ホントにあの門外顧問の子?全然似てないじゃない」
 
ルッスーリアが綱吉の顔をじろじろ見て、しみじみと言う。
 
「あの、俺はよく母親似って言われてたんで・・・父さんにはあんまり似てないんです・・・」
 
そう言ってから綱吉は、今はもういない母を思い出してしまい俯く。
未だに、家で倒れている母を見つけた時の事は夢にみていた。
どうにも消えない映像。
今でもはっきりと思い出せる。
笑顔の母を思い出しても、次の瞬間には血まみれで青白い顔をしている。
 
 
 
「ふぅっ・・・・・・」
 
綱吉は膝をガクッと落とし、床にへたり込む。
普段は昼間には無理矢理思い出さないようにしているのだが、一旦考えてしまうともう駄目だった。
 
突然崩れ落ちて涙を流し始めた綱吉に周りは焦る。
 
「ちょっとどうしたの?私、何か気に障るような事言ったかしら?」
 
「・・・おそらく母親の事だろう。カス鮫の話じゃ母親の死体を直接見たらしいからな」
 
だが、母親の記憶もほとんどなく、いくつもの死体を見てきたザンザスには綱吉の気持ちは理解出来なかった。
 
 
わんわん泣き出した綱吉をそっと立たせ、ソファーに連れて行く。
そんなザンザスの行動に、部下3人は目を見開いた。
あのザンザスがあそこまで人に優しくする姿など見た事がない。
 
とりあえずこれ以上はここにいない方がいいだろうと考え、3人はそっと部屋を出て行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「落ち着いたか?」
 
「・・・はい、すみませんでした・・・」
 
泣き腫らした顔を上げ、綱吉は隣に座るザンザスに深く頭を下げた。
ずっと自分の肩を抱いていてくれて、すごく心地よかった。
オレガノさんもよく抱きしめてくれるが、その時とはまた違った心地よさだった。
 
 
「ザンザスさんって・・・」
 
「あ?」
 
「すっごく暖かいです・・・」
 
「・・・・・・・・・」
 
 
“暖かい”
冷酷非道などとは言われた事はあるが、暖かいとは初めて言われた。
自分でだって、そんな言葉は無縁だと思っていた。
どこがだ、と聞こうとしたが、すでに綱吉は腕の中で眠っていた。
泣き疲れたのだろうか、気持ちよさそうな顔をしていた。
 
ザンザスはそっと綱吉を抱き上げると、ベッドまで運び優しく寝かせた。
その寝顔は幼く、とてもマフィアの頂点に立つ者の顔ではなかった。
 
 
これからこの少女は、とんでもなく重く暗い残酷なものを背負っていかなくてはならない。
この小さな身体に、真っ白な心に。
 
ボンゴレを継ぐか、その命を亡くすか、非情にも選択肢は2つに1つしかない。
 
ならば自分は、この新たなボスの為に全てを捧げよう。
 
その背負うものが少しでも軽くなるように。
 
 
何が何でも死なせはしない。
 
 
 
俺の命に代えても。
 
 
 
 
 
 
ザンザスはすやすやと眠る綱吉の頬をそっと撫でる。
 
 
この感情がなんなのかはよくわからない。
 
ただ、このか弱い少女を死なせたくない。
 
忠誠・・・とは少し違うように思えた。
 
 
そう、多分こんな言葉が合うのかもしれない。
 
今までに使った事などない言葉。
 
使う事などないと思っていた言葉。
 
 
 
 
“愛しい”
 
 
 
 
 
 
 
 
部屋の電気を消し、ザンザスは静かに去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――
ちょっと自覚し始めたザンザス。
綱吉はまだ奈々さんの事を密かに引きずってます。
2008.02.01
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