小説1

□Cenerentola
6ページ/7ページ


 
次の日。
早速、お城から町へと連絡が回った。
その内容とは、パーティーに出席した者の中で、あるガラスの靴を履けた者が王子の婚約者となる、というものだった。
 
これには町中大騒ぎ。
従者が家に訪ねて来るのを今か今かと待ち構えていた。
 
 
 
「イヤ〜ッ、こんなに小さな靴、私入らないわぁ〜」
 
「ルッス、だから無理だって…」
 
倍近くある足をぎゅうぎゅう詰め込もうとするルッスーリア。
もちろん、入る訳がない。
スクアーロとしても、絶対にあの時の少女はこんなオカマではなかったので、ここで履かれても困る。
 
「諦めなさい、ルッス」
 
レヴィが言うと、ルッスーリアはしぶしぶガラスの靴を戻す。
それからスクアーロを見ると、「あら?」と言って近づいた。
 
「貴方、細い割になかなかの筋肉ね?イヤン、貴方でもいいかも〜っ」
 
「な"っ……?!」
 
身の危険を感じたスクアーロは、逃げるように去って行くのだった。
 
 
 
「……この私でも入らない靴なんて…」
 
「M・M、さぁ、早く靴を返しなさい」
 
もちろん、M・Mもダメであった。
 
 
 
 
 
 
一方、ディーノはこの知らせを聞いて慌てて恭弥と隼人へ呼びかけたが、2人共「興味ない」の一言で一蹴。
それどころか、ここへお城の遣いの者が来ると知って、綱吉に絶対に部屋から出ないよう忠告した。
可愛い妹をあんな奴らに見せるものか!という考えは、いくら仲の良くない姉2人でも一致していたのだった。
 
 
 
その頃、スクアーロはやっと最後の家の前に来ていた。
町中を回ったが、この靴が特別小さいらしく、誰も履ける者はいなかった。
 
 
「おい」
 
「あ"?……って、ボスぅ?!何でここに……」
 
気づけば、ザンザスが横にいた。
 
「ここだ」
 
「は?」
 
「ここにいる」
 
「っ……………」
 
スクアーロは息を飲む。
 
実はあの城の者は、代々超直感というものがあるのだ。
確証はないが、とにかく勘が鋭い。
外れたことがない。
 
だからこそ、疑う余地はどこにもなかった。
彼がそうだと言えば、絶対にそうなのだ。
 
 
「んじゃ、行くぜぇ」
 
そう言い、スクアーロはやっと仕事から解放される喜びからか、意気揚々とベルを押すのだった。
 
 
 
 
 
そして、部屋に閉じ込められた綱吉。
もちろん、今回の件も全く知らされていない。
 
「はぁ…やっぱり私は足手まといなのかなぁ…」
 
姉2人から、今日は大事なお客さんが来るから部屋から出るなときつく言われたのだ。
それを綱吉は、自分はダメな人間だから迷惑をかけてしまう、だから表に出してもらえないのだ、と思っているのだ。
 
だが、ふと思う。
お客さんが来たら、お茶を出すのが普通だろう。
母であるディーノは……無理だ。
まずお湯を沸かす時点で火傷をするだろう。
では、姉2人はどうか。
……やれば出来るが、彼女らが他人に興味がないのは知っている。
以前に、一度だけ家にお客さんが来た事がある。
その時、客であるにも関わらず恭弥と隼人はお茶も出さずに偉そうな態度、しまいには綱吉がこっそりとお茶を横から差し出す形となったのだった。
 
 
「……ダメだ、お客さんならやっぱりちゃんと迎えなくちゃ!」
 
お茶を出すくらいなら迷惑にはならないはずだ。
 
綱吉は棚の中にしまってあったガラスの靴を握り締め、ポケットにしまう。
あれから、このガラスの靴はお守りになっていた。
 
「大丈夫、お茶を出すだけだもん」
 
部屋に鍵はついていない。
全ての部屋がそうである。
 
ちょうどその時、ベルが鳴った。
綱吉は恐る恐る、部屋のドアを開けるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
「あ、あの………えと……こんにちは…?」
 
気の利いた挨拶も思い浮かばず、ディーノはそう言ってお城からの遣いを迎える。
その様子に恭弥と隼人はため息をついた。
 
 
「パーティーに行った者を出せぇ」
 
スクアーロが言うと、ものすごく嫌そうに恭弥と隼人が前に出た。
 
「どうせ違うんだから、早くしてよね」
 
「さっさと済ませろ」
 
「ちょっ…2人共っ」
 
ディーノがわたわたとする中、2人はガラスの靴を履こうとした。
そして頑張りもせず、早々に諦める。
だが、どうやら2人にもこのガラスの靴は小さかったらしい。
 
「残るは……アンタかぁ?」
 
スクアーロはディーノを見た。
 
「えっ?!」
 
まさかと思ってディーノにも履かせるが、当然入らない。
 
 
 
そこへ、中に入らずに表に立っていたザンザスが入ってきた。
 
「まだいるはずだ」
 
そう言って家の中を見回す。
 
恭弥と隼人は「何故わかるんだ?」と視線だけを通わせた。
それからディーノが慌ててザンザスを改めて良く見る。
 
「まっまさか…王子様?!」
 
遠目ながら、パーティーで見た。
確かに彼だった。
 
「娘を出せ」
 
「えと…パーティーへ行ったのは私達3人だけで……」
 
だがザンザスは、聞く耳を持たない。
 
これでは話が進まないので、スクアーロがディーノに言った。
 
「パーティーに行っても行かなくてもいい、とにかく残った娘を連れてこい」
 
「あの………」
 
ディーノは恭弥と隼人を見る。
2人共、「絶対に綱吉を出すな!」と言わんばかりにこちらをにらんでいた。
 
 
 
 
 
「あのぉ……」
 
そこへ、綱吉が階段の上に立つ。
 
「綱吉?!」
 
「綱吉様?!」
 
姉2人が叫ぶ。
今だけは、部屋に鍵をつけなかった事をものすごく後悔した。
 
綱吉は迷いながらも階段を下りる。
下りきったところで、ザンザスと目があった。
 
 
「あ………」
 
貴方は、と言おうとしたところで、綱吉はものすごい勢いで近づいてきたザンザスに抱きしめられた。
 
周囲は唖然として言葉も出ない。
 
 
わたわたした綱吉のポケットから、あのガラスの靴が滑り落ちた。
 
「っ!それは……」
 
スクアーロが慌てて拾う。
確かに、あの少女が落とした靴の片割れだった。
 
 
 
ザンザスはやっと綱吉を離すと、彼女の前にガラスの靴を置く。
 
「履いてみろ」
 
「えと……」
 
片方は、自分が持っていたもの。
もう片方は、お城で落としたもの。
 
綱吉はザンザスに手を支えられながら、そのガラスの靴を履く。
もちろん、ピッタリだった。
 
 
「決まりだなぁ」
 
「ハンッ、んなの履かせなくともわかるがな」
 
 
 
そこでようやく、ディーノと恭弥と隼人が我に返った。
 
「綱吉、よくわからないけどやったわね!」
 
「ちょっと綱吉、どういう事だい?!」
 
「綱吉様?!いつパーティーに…?!」
 
 
訳がわからない綱吉は、スクアーロから事情を聞いて全てを納得した。
 
 
「じゃあ…もしかして貴方が王子様……?」
 
「あぁ」
 
「そっ…そんな………私、お城ですごく失礼な事を沢山……っ」
 
「やっぱり、気づいてなかったんだな」
 
ザンザスが微笑む。
それにはスクアーロが驚いた。
従者になってこのかた、王子が微笑む姿など見た事がなかったからだ。
笑うといっても、何かを企むように口の端を上げるか、思い通りにいって高笑いをするくらいだ。
 
 
「てな訳で、今日からおまえがこの俺の妻だ。異論はあるか」
 
有無を言わさぬこの威圧感。
異論などあっても言えない。
もちろん綱吉は、拒否するつもりなどなかったが。
 
「私なんかでよければ……お願いします」
 
ニッコリ笑うと、その顎を捕まれて引き寄せられ……キスをされた。
 
「「なっ……」」
 
姉2人は青ざめ、ディーノは驚く。
 
そして綱吉はといえば、全身を真っ赤にしていた。
当然、キスなど初めて。
異性とまともに口を聞く機会もあまりない程だ。
 
 
 
やっと唇が離れると、ザンザスは真っ赤な彼女のおでこにチュッと軽くキスを落とす。
 
そして、言った。
 
 
「もう一度聞く。おまえの名前は?」
 
 
綱吉は一瞬きょとんとするが、次の瞬間、満面の笑みで答えた。
 
 
「綱吉……私の名前は、綱吉です」
 
 
 
 
 
 
あるところに、それは可愛らしい少女が住んでおりました。
彼女はいろいろな者達の力を借り、最高の幸せを手に入れる事が出来ました。
そしてその幸せは、長く、末永く続くのでした。
 
 
 
 
 



2009.10.08
 
 
→後書き
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ