小説1

□Cenerentola
5ページ/7ページ


 
お城では盛大なパーディーが催されていた。
その中でもやはり、綺麗な恭弥と隼人は目立つ。
ディーノも30過ぎとはいえ、それを感じさせないものがあった。
 
「はぁ……やっぱり帰ろうかな」
 
「それには賛成だ。綱吉様がいないのに楽しい訳ねーしな」
 
「ちょっ…まだ来たばかりだよ?2人共っ」
 
慌ててディーノが問題児2人をなだめる。
彼女にとっては、綱吉も可愛いがこの2人ももちろん可愛い。
だから、いい人を見つけて幸せになってほしいのだ。
だが、この性格を考えると……難しいかもしれない。
 
 
 
すると、何やら少し離れた所が騒がしくなってきた。
どうやら噂の王子が来たらしい。
若い女性達は皆、我先にと競って王子に詰め寄った。
 
「イヤ〜ン、やっぱり王子様カッコイイわぁ〜っ」
 
「ルッス、貴方はちょっと…きっともっと貴方に相応しい人がいるわっ」
 
「何よレヴィ母さんったら。まぁ…確かにもうちょっとマッチョが理想だけど…」
 
そんなレヴィとルッスーリアの親子に、勢い良く女の子がぶつかってきた。
 
「私が王子様と結婚よ!!」
 
ピンクの髪の可愛らしい女の子だ。
 
「ちょっと貴女?!王子様と結婚するのはこの私よ!」
 
「何?貴方。オカマはすっこんでてよ」
 
「まぁ!生意気ね!」
 
「玉の輿よ!こんな機会滅多に…いいえ、もう一生ないわ!」
 
金にうるさい事で町では少し有名なM・Mだ。
母であるランチアはハラハラしながら一歩下がった所で見守っている。
 
そんな争いが王子の周りのあちこちで繰り広げられていた。
 
 
当の王子は興味なさそうに、むしろ不機嫌にウイスキーを飲み干す。
……どいつもこいつもカスばかりだ。
妃の座を狙って醜い争いをする。
 
「う"お"ぉい、誰か気になった奴とかいねーのかぁ?」
 
「あ?いる訳ねーだろ」
 
お付きのスクアーロのささやきも一蹴する。
 
「国王はこの中から決める気だぜぇ?いい加減腹くくっちまえぇ。……ほら、あの辺の2人なんてどうだぁ?」
 
「あ?」
 
指された方を見れば、黒髪と銀髪と金髪の女性がいた。
金髪は若く見えるが20代後半から30代ってところだろう。
だとしたら黒髪と銀髪の2人か…。
 
「……興味ねぇ」
 
「う"お"いっ」
 
一般から見たら美人なのかもしれないが、だからといって興味も何も持てない。
 
スクアーロはため息をつき、「こりゃあ無理かもなぁ…」と1人呟くのだった。
 
 
 
 
 
「………もう限界だ」
 
ふと、恭弥が言った。
 
「な、何?」
 
ディーノが嫌な予感を振り払い聞く。
 
「帰る」
 
「…………」
 
嫌な予感的中。
群れるのが嫌いな彼女に、やはりこのようなパーティーは無理だったのだ。
 
「じゃあ私も帰る」
 
隼人もそう言い出した。
 
「そっそんな……」
 
ディーノは困ったが、この2人は本当にパーティーや王子に興味がなさそう……というか嫌いなようなので、ここは2人を連れて帰ることにした。
 
 
 
3人が馬車でお城を出たちょうどその時、遅れて入っていく小さな馬車があった。
 
そこから出てきたのはまだあどけなさが残る少女で、パーティーは初めてなのか、表情にも期待以上に不安が表れている。
 
「どうしよう…私、すごく場違いなのかな…」
 
綱吉はきょろきょろと辺りを見渡す。
初めてのお城……ここに入れただけでもすごく嬉しい。
 
階段を上っていくと、賑やかな声が聞こえてきた。
パーティー会場だ。
少し戸惑った綱吉だが、あの人混みの中へ入ってしまえばなんとかなるだろうと、意を決して歩き出すのだった。
 
 
 
 
 
「…………………」
 
ザンザスは、我慢の限界にきていた。
周りには騒がしい女達。
横には小うるさい従者。
もうウンザリだ。
 
そして、何気なしに会場の入り口に目をやった。
白いドレスを着た少女が見える。
どうやら遅れて到着したらしい。
 
 
「………………………」
 
ザンザスは組んでいた足を戻し、無言で立ち上がる。
スクアーロが横で何か言うのも全く耳に入っていない。
周囲も王子が動いた事で何事かと、思わず道をあけた。
 
 
 
「おい」
 
「ふえっ………え?は、はいっ」
 
入ろうかどうしようか迷っていた綱吉は、突然話しかけられて思わず声を裏返した。
呼ばれた方を見れば、背の高い男性が立っていた。
すごく高そうな服を着ている。
そして何故か……睨まれている。
やはりここへ来たのは場違いだったのかと冷汗をかく綱吉。
こんな事なら、引き返していれば良かった…。
 
だが声をかけたザンザスは、睨んでいるつもりはこれっぽちもなかった。
ただ元から目つきが悪いのだ。
 
「おまえ…」
 
「は、はいっ、すみませんっ、もう帰りますぅっ」
 
「俺と踊れ」
 
「はい、おど………えぇ?!」
 
てっきり怒られるのかと思っていた綱吉は、またまた声を裏返らせる。
ダンスは義母や姉達から習っていたから大丈夫だけど…などと、やけに冷静に頭は働いていた。
 
 
「もう一度言う。俺と踊れ」
 
「はっはい!お…お願いします…」
 
そこでザンザスは遠くの方で呆然と立ち尽くしているスクアーロを睨む。
スクアーロは慌てて演奏の指示を出した。
途端、ライトの雰囲気が変わり、ゆったりとした演奏がスタートする。
綱吉は差し出された手を取り、踊りながらパーティー会場へと入っていった。
 
 
 
2階席からその様子を見ていた国王、9代目は感激のあまり涙を流す。
 
「おぉ……あのザンザスがついに…」
 
家光も、まさかの展開に目を見開く。
 
「あの王子が……しかし、彼女は何者でしょうね…」
 
 
 
 
1階ではただ、王子と謎の女性のみが踊っていた。
綱吉は初めての男性とのダンスに緊張しながらも、絶妙なリードに段々と楽しむ余裕も出てきた。
周囲では、王子を狙っていた若い女性が羨ましそうにその光景を眺めている。
しかし綱吉の美しさに、誰もが一歩下がった。
 
 
綱吉は改めて目の前の男の顔を見上げた。
目つきは少し悪いが、よく見るとカッコイイ。
身体も、見た目は結構細いのにガッチリしている。
心臓の音が……速まった。
 
 
 
2人は踊りながら庭園へと入っていった。
ザンザスがそう仕向けたのだ。
彼女と2人きりになるために…。
 
ザンザスは体力のない綱吉が疲れてきたのを悟ると、踊りをやめる。
そして手を繋いで庭園を歩いた。
会話はまだない。
 
 
橋まで来たところで、やっとザンザスが口を開いた。
 
「おまえ…名前は」
 
「えっ…」
 
綱吉は言葉に詰まる。
内緒で来てしまったため、ここで名乗る訳にはいかない。
だが嘘もつけない。
 
結局、「言えないんです…」と答えた。
だがそれで納得するザンザスではない。
 
「言えない?どういう事だ」
 
「その………」
 
 
――ゴーン…ゴーン…
 
 
「っ!!!!」
 
綱吉はお城の時計台を見る。
針は12時ちょうどを指していた。
 
「かっ帰らなきゃ!」
 
「何?」
 
「あの……今日は踊って下さってありがとうございましたっ。一生の思い出になりました。では…失礼しますっ!」
 
「ちょっ…待て!」
 
慌てて帰ろうとする綱吉の腕を掴み、ザンザスが眉をひそめる。
 
「まだ12時だろう」
 
「ですから、帰らなきゃっ」
 
「何故だ」
 
「それは……あ、あのっ、王子様にもお会いしてないですし…」
 
「何…?」
 
咄嗟についた綱吉の言い訳に固まったザンザス。
綱吉はその隙にと手を振り払い、一目散に走っていった。
 
「おいっ、待て!!」
 
パーティー会場を通り過ぎ、慌てて門へと向かう綱吉。
それを追いかけるザンザス。
そんな様子を見て、家光は部下に彼女を止めるよう命令した。
スクアーロもザンザスを追いかける。
 
 
ない体力を必死にフル稼働させて走る綱吉は、階段で少しつまずきガラスの靴が脱げてしまった。
戻って拾おうとするが、追っ手はすぐそこまで来ている。
ここで捕まる訳にはいかない。
仕方なく片足が裸足のまま馬車へ乗り込み、風のように走り去っていった。
 
残されたザンザスは唖然とするが、ガラスの靴が落ちているのに気づく。
確かにあの少女が履いていた、小さなガラスの靴。
それを握り締め、何かを決心したような目をするザンザスだった。
 
 
 
 
一方、逃げきった綱吉。
家の寸前で魔法が全て解けてしまった。
見下ろせばいつもの自分の姿に、周りを見ればネズミ達も元に戻っている。
だが何故か、ガラスの靴だけはそのまま残っていた。
 
「あの人……誰だったんだろう…」
 
まだ心臓の音がうるさい。
思い出すだけで胸がいっぱいになる。
でもおそらく彼は、身なりから考えても上流貴族。
自分なんかではつり合うはずもない。
きっとこれっきりだろう。
 
「でも…最高の思い出になった…」
 
 
家に帰ると何故かもう3人は帰ってきていて、ものすごい勢いで抱きつかれた。
どうやらこれから捜しに行くところだったらしい。
なんとか言い訳をして誤魔化した綱吉は、その夜、興奮して全く眠れないのであった。
 
 
 

 
 
2009.08.21
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ