小説1

□Cenerentola
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パーティー当日。
ディーノは久々のパーティーにウキウキとし、恭弥と隼人は嫌そうに適当に支度をする。
それでも皆素材がいいため、かなりの美人3人が出来上がっていた。
 
綱吉が残るのでディーノも残ると言ったのだが、母がパーティーを楽しみにしているのがわかった綱吉が行く事を勧めたのだ。
留守番は自分1人で大丈夫だから、と。
 
それでも綱吉だってパーティーに行きたい。
王子様だって見た事がないし、外へ出かけるのだって滅多に出来ない事。
姉2人もそれを知っているのか、念には念を入れてドレスの入っている棚に鍵をかけてしまった。
もちろんその鍵はパーティー会場へ持って行く。
まぁ開けられたところで、さらに念を入れて彼女のサイズのドレスは宅配で別の所へ移動させておいたのだが。
 
 
 
 
「じゃあ綱吉、私達はもう行くけど……これは綱吉のためだからね、我慢してよ」
 
「…うん、行ってらっしゃい、恭弥姉」
 
「綱吉様っ、すぐに帰ってきますからっ」
 
「ゆっくり楽しんできてよ、隼人姉」
 
「綱吉…誰か来てもドアを開けちゃダメだよ?わかった?」
 
「わかったよ、母さん」
 
綺麗に着飾った姉と母を笑顔で見送る綱吉。
だがドアが閉まり1人になれば、その顔は途端に暗くなった。
 
 
「………………」
 
やっぱり行きたい。
だってお城で催されるパーティー、普段一般人が呼び出される事は滅多にないのだ。
なのに行けない……。
 
 
「でも、私のためだって恭弥姉と隼人姉は言ってくれたし…」
 
 
「それでも行きたいんだろ?」
 
「えっ?!」
 
部屋で落ち込んでいたら、いつの間にかネズミ達が傍に来ていた。
 
「リボーン……」
 
「行きたいんだろ?」
 
「………うん、ホントはすごく行きたい…」
 
「だったら行くべきだぜ、コラ!」
 
コロネロが横から熱く主張する。
 
「あんな姉共にヘコヘコしてねーで無理矢理ついてきゃ良かったんだ」
 
ラルも相変わらずおしとやかとは程遠い台詞を吐いた。
 
「綱吉のドレス姿…見たいな」
 
マーモンもぼそっと言う。
 
だがスカルが「でも…」と口を挟んだ。
 
「姉達は綱吉のためを思ったんだろ?だってあのパーティー…」
 
「「スカル!!」」
 
リボーンとコロネロの声が重なった。
怒鳴られたスカルはビクッとビビって綱吉の陰に隠れる。
パーティーが王子の婚約者捜しだと言おうとしたために止められたのだ。
 
ネズミ達も本当は綱吉をそんな場に行かせたくはない。
だがこんなにも行きたがっている綱吉に行くなというのは可哀想で出来ない。
結局みんな、彼女には甘いのである。
 
 
綱吉は苦笑し、みんなに「ありがとう」とお礼を言った。
 
「どうせドレスはないし、お城までの馬車もない。行けないよ……」
 
「「「「「…………」」」」」
 
しばらく重たい空気が流れる。
 
だが綱吉はカーテンから漏れる月の光を見て、立ち上がった。
 
「うじうじしててもしょうがないや!ちょっと外に出てくる」
 
「外?!綱吉、アイツの言う事聞いてたか?!」
 
「大丈夫だよラル、ちょっと庭に出るだけだから。星空を見上げたい気分なんだ」
 
「綱吉…」
 
もちろん、悲しそうな彼女の背中に向かってダメとは言えなかった。
 
 
 
 
 
 
庭に出ると、満天の星空が広がっていた。
三日月も静かに夜を照らしている。
 
「……うん、大丈夫。パーティーは今回だけじゃないもん」
 
綺麗な夜空を見上げながらそう自分に言い聞かせる。
だが、自然と涙が一滴流れた。
 
 
 
そろそろ家の中へ入ろうとした時、どこからか声が聞こえてきた。
 
「……だって普段は滅多に出て来られないし…」
 
「だからっておまえと一緒に行動すんのは嫌なんだびょん」
 
「…めんどい」
 
確かに庭の中から聞こえてくる。
しかも複数。
 
綱吉は早く家の中へ入らなければと思いながらも、足がすくんで動けなかった。
そして薄い霧の中から人が現れる。
 
「………………」
 
1人は不思議な髪型の女の子、後の2人は対照的な感じの男の子だった。
 
向こうもこちらに気づいたのか、その場で歩みを止める。
しばし無言が庭を支配した。
 
 
「あの…どちらさまですか…?」
 
綱吉は震える声で恐る恐る尋ねた。
外部の人と会うのはどのくらいぶりだろう。
怖いけれど、おそらく相手も自分と同い年か少し上。
それが逃げるのをとどまらせた。
 
 
まずは女の子が前に出る。
 
「私はクローム。魔法使いで、骸様に仕えてるの」
 
そして残りの2人も自己紹介をした。
 
「犬っつーんらけど…別に名前はどうでもいいびょん」
 
「千種……という」
 
意外と律儀にちゃんと名乗ってくれた。
綱吉も慌てて「つっ綱吉です!」と言った。
 
 
話を聞けば、クロームと骸とかいう人は魔法使いで、犬と千種は魔法使い見習いだそうだ。
そしてクロームと骸は2人で1人らしい。
……よくわからないが。
 
 
「で、貴方はパーティーへ行けなくて悩んでいるのよね?」
 
「えっ?!何で知ってるんですか?!」
 
「魔法使い…だから」
 
「あ……そうなんだ…」
 
クロームにそう言いきられ、頷くしかなかった。
 
「…でもドレスもないし、馬車もない。もう無理ですよ…」
 
「そんな事ないびょん!」
 
「え?」
 
「骸様なら、出来る」
 
「骸様……?」
 
先程から名前が出ているが、一体骸とは何者なのだろう。
魔法使いでクロームの分身…いや、クロームが彼の分身らしいが。
 
 
 
そこへ霧が立ち込める。
クロームがそれに包まれた。
 
 
「クフフフフ…」
 
霧の中から聞こえてきたのは、男の怪しい笑い声。
その中から出てきたのはクロームではなく、同じ髪型をした男の子だった。
 
 
「もしかして貴方が…」
 
「そう、僕が骸です。最強で最上級の魔法使いですよ」
 
たっぷり自画自賛すると、骸はどこからか3本の刃がついた棒を取り出す。
そして高らかに言った。
 
「この僕が来たからにはもう大丈夫!必ずや貴方をパーティーへ連れて行って差し上げましょう!」
 
「ほっ…ホントですか?!」
 
「えぇ。ただしそれには少々いるものが……あぁ、いましたね」
 
骸はそう言うと、突然木の隅にどうやら魔法の杖らしきその棒を向ける。
そこには心配で見に来たネズミ達がいた。
 
 
「ク・フ・フ・の・フ〜っ!!」
 
なんとも奇妙な呪文を唱え、杖を振る。
するとネズミ達はたちまち馬に変わった。
 
「す…すごい!」
 
「こんなものは朝飯前ですよ。では次は馬車ですが……千種、貴方のそのヨーヨーを使いますか」
 
「これはちょっと…」
 
そこで綱吉は庭に植えてあるカボチャを見つけた。
 
「魔法使いさん、あれとか…」
 
「あれ?……カボチャですか…まぁいいでしょう」
 
千種がホッとしたのを見て、綱吉も一安心する。
彼が大事そうにヨーヨーを持っているのを見ていたからだ。
 
 
「ク・フ・フ・の・フ〜っ!!」
 
途端にカボチャが可愛らしい馬車に変わる。
そこに先程馬になったネズミ達が前に3頭、後ろに2頭配置についた。
 
「あとは馬車を操る者と従者…ですね」
 
骸は庭を見渡すと、馬小屋にいたランボに杖を向ける。
また妙な呪文を唱え、ランボは立派な人間になった。
 
そして同じく庭にいた武に杖を向けると、彼も人間になる。
これは従者の格好だ。
 
 
「すごいすごい!魔法使いさんすごいです!」
 
「クフフ、ありがとうございます。あとは仕上げのみ。貴方のドレスですね」
 
「作れるんですか?!」
 
「もちろん」
 
そして骸は盛大に杖を振った。
 
 
「ク・フ・フ……ク・フ・フ……ク・フ・フ・の・フ〜っ!!!!」
 
するとみるみる綱吉の姿が変わっていく。
フワフワな髪は毛先はその特徴を生かしながらもあとは綺麗にまとめられて綺麗な髪飾りがつけられた。
首にはシルバーの綺麗なネックレス。
ドレスはシンプルな白が基調だがフリルや細かい刺繍は上品で清楚。
靴は今まで見た事もない程輝くガラスの靴だった。
 
「…鏡を見てみるといい」
 
そう言って千種が大きな鏡を出してくれた。
池の水を利用して作ってくれたらしい。
さすが魔法使い見習い。
 
「……これが…私……?」
 
鏡を見た綱吉は思わずそう漏らす。
まるで別人だ。
あんなに悩みの種だったクセッ毛もいい具合にまとめられている。
ドレスも、こんなに綺麗なものは見た事がない。
極めつけにガラスの靴。
 
「魔法使いさん、ありがとう!すごい!これならパーティーに行けます!」
 
はしゃぐ綱吉。
だが骸は飛び回る彼女の肩を掴み、言った。
 
「僕の魔力は今ちょっと弱まっているんです。なのでこの魔法はそんなに長く続きません。あと2時間、つまりきっかり12時には消えてしまいます。その前に必ず、帰って来るんですよ?」
 
「12時……わかりました。でも、ホントに嬉しいです!ありがとうございます!」
 
「えぇ、すごく素敵ですよ。クロームもそう言っています」
 
「早く行くびょん」
 
「そうだよ、時間が…」
 
犬と千種に押されて馬車に乗り込む綱吉。
何度も骸達にお礼を言いながら城へ向かうのだった。
 
 
 
 
 
 

 
2009.05.03
 
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