小説1

□Neve Bianco
9ページ/12ページ


 
 
「じゃあ行ってくるね」
 
綱吉はドアの前で小人達に手を振る。
みんな心配そうにこちらを見上げていた。
ただ果物を取ってくるだけなのに毎回これである。
 
「あんまり遠くへ行っては駄目よ?」
 
オレガノが何度も何度も同じ事を繰り返す。
 
「わかってますって」
 
「綱吉、知らない人に出会ったら?」
 
「絶対についていかない。話しかけられてもなるべく早く話をきりあげて戻ってくる」
 
「そうだよ、忘れないでね」
 
見た目赤ん坊のマーモンにまで心配されてしまう。
 
それから延々と一時の別れの言葉が続き、いつもの通り出かけるまでに10分は要してしまう。
それでもみんなの気持ちが嬉しくて、綱吉も文句を言えないのだ。
 
 
 
すでに恒例となったそれがやっと終わると、綱吉は籠を持って森へ入って行った。
最近は暖かくなってきたから、きっと沢山果物が取れるだろう。
もしかしたら薬草も摘めるかもしれない。
 
上機嫌な綱吉。
 
 
だが、その跡をある人物がつけていた。
 
その人物とは、ボンゴレ貴族の10代目候補、ザンザス。
早速彼の居場所をつきとめたはいいが、こんな森の中でどうやって生活しているのか少し気になったのだ。
どうやら小人達と暮らしているらしいが。
 
話では14歳との事だが、自分が14歳だった頃に比べてだいぶ幼く見えた。
こんな暮らしだからだろうか、身体も細かった。
 
 
いつ殺してやろうかと機会を見計らっていると、ふと綱吉が立ち止まった。
バレたかと一瞬思うが、どうやら違ったらしい。
彼の足元には男が横たわっていた。
どうやら足を怪我して動けないらしい。
 
 
綱吉は目の前の男を見た。
金髪で身なりのいい服。
きっとどこかのお金持ちだろう。
 
そろそろと近づきしゃがみ込む。
そして恐る恐る尋ねてみた。
 
「あの…大丈夫ですか…?」
 
すると男は綱吉に気づいたのか首だけを上に向けた。
 
「あぁ…こんな所に人がいるとは……情けない話で、乗馬の練習をしていたら落馬してしまってね、この有り様さ」
 
話を聞くと、乗馬の練習に部下の2人も連れていたのだが途中ではぐれてしまったらしい。
その途端馬を扱えなくなり落馬した…という訳だ。
 
小人達の言いつけを忘れた訳ではないが、綱吉は特にこんな人を放っておけないのである。
 
 
「あの…ウチに来ますか…?」
 
だがそこで遠くの方から呼び声が聞こえてきた。
 
「あぁ、俺の部下だ。大丈夫、なんとか部下の所までは歩いていけそうだよ」
 
男はそう言うと苦しそうに起き上がった。
それから綱吉を見て微笑む。
 
「ありがとう、親切にしてくれて。俺はディーノ、キャバッローネ貴族の10代目だ」
 
「俺は綱吉です、この森に住んでるんです」
 
にこっと笑う綱吉の笑顔に、ディーノは思わず釘付けになった。
一面花畑に囲まれたような気分になったのだ。
 
 
「王子―っ」
 
「いないのかーっ?!」
 
部下の声が近づく。
 
「っと…俺はもう行くぜ。世話んなったな、ツナ」
 
「あ、いえ、お大事に……」
 
大した世話もしていないが…とりあえず大丈夫そうなのでホッと安心する綱吉だった。
 
 
 
 
一方それを黙って見ていたザンザス。
実は角度的に彼の場所からでも綱吉の笑顔は見えていた。
 
あの笑顔。
一目見た時から父親には全く似ていなくて明らかに母親似だったが、ああいった明るい笑顔は父親にも似ているのかもしれない。
 
ずっと貴族の権力やら力やらの中で生きてきたザンザス。
あの綱吉の笑顔を見た時の感情が一体何なのかわからなかった。
 
ただ確かな事は1つ。
殺気が全くといっていい程削がれてしまっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
結局何もせずに帰ってきてしまったザンザス。
部屋で1人悶々と考えていた。
 
確かに、確かにあの沢田綱吉を殺そうとあそこまで出向いたはずだった。
だが、あの笑顔で一瞬にしてそんな気持ちは失せた。
これがボンゴレの血?
いや、ボンゴレには表の良い噂と比例して裏の悪い噂も絶えない。
なのにあの子供は何も知らずに育ったせいか、その良い部分だけを見事に受け継いでいた。
 
スクアーロが言っていた“あいつは、おまえにないモンを持っている”という言葉。
少しだけわかったような気がした。
 
 
 
そこへいざという時のために部屋に戻した魔法の鏡にルッスーリアが映しだされた。
 
「貴方、沢田綱吉に会って来たのね」
 
「……それがどうした」
 
「殺せなかったのね、やっぱり」
 
「…どういう事だ…?」
 
するとルッスーリアは優しく微笑んだ。
 
「貴方わかってないのね、自分の気持ちに。……それは恋よ」
 
「……こ…い…?」
 
っていうのはアレか、魚の……
 
「おい、この俺を魚と同等にしようってのか?いい度胸じゃねーか」
 
ベタに勘違いされたルッスーリアは驚きながらも彼の天然ぶりを始めて知った。
 
「違うわよ、魚の鯉じゃなくて、恋愛の方の恋よっ」
 
「………………はぁぁぁ?!?!!!」
 
あまりに自分とは無関係の単語にしばし理解が遅れたが、ようやくザンザスの脳内で漢字が正しく変換された。
 
 
「好きなんでしょ?彼のこと」
 
好き?
この俺があのガキを?
そんなまさか。
アイツは自分にとって最大の邪魔者で、殺すべき対象で、憎むべき存在である。
 
 
「んな訳ねーだろ」
 
「私は嘘はつかないわよ、それは知っているわよね」
 
「………」
 
知っている。
だが、信じられない。
 
「俺はあの沢田綱吉を消す」
 
「出来ないわ」
 
「やってやる!!」
 
「……まぁ、私には貴方を止める術も権利もないわ」
 
ルッスーリアはそれっきり鏡の中へ姿を消した。
 
 
 
ザンザスは椅子の上にかけていたコートを羽織る。
もちろん、また森へ向かうためだ。
 
今度はただでは帰ってこない。
必ずやあの邪魔者を消してやる。
 
 
 
 
彼の出て行った部屋。
魔法の鏡にまたルッスーリアが映った。
 
「…………全く、しょうがないわね…」
 
苦笑しながらそう呟く様子は、まるで母親のようだった。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――
ディーノ登場。
山本と了平は…ごめん、名前出せなかった(笑)
終わりに近づいてます。
そしてもはや白雪姫ではありませんね…。
2008.06.30
2008.07.01
 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ