小説1

□Neve Bianco
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「………ってな訳で、アイツらは何もかも捨てて一緒になったんだぁ」
 
「すごーい!!それでツッ君…じゃなかった、俺が生まれたんだね」
 
最近、近所の子供達の影響で、自分の事を「ツッ君」から「俺」に変えた綱吉。
そろそろ慣れなくてはいけない。
 
 
「あとは、そうだなぁ…テメェに普通の生活をさせてやりたかったのかもなぁ」
 
「普通の生活…?」
 
「何せあの初代ボンゴレの血を受け継いでるとなりゃあ………」
 
そこでスクアーロは、やっと自らの使命を思い出した。
 
そうだ、自分はこの子供を殺しにきたのだ。
ボンゴレのために。
 
 
だが、見た目に反して根は優しいスクアーロ。
これだけ仲良くなっておいて、今更彼を殺す事など出来なかった。
 
それに認めたくはないが、どうやら自分はこの幼い子供を気に入ってしまったらしい。
ザンザスとはまた違う魅力を持つ少年。
殺気を消されるなんて初めてだった。
 
さらに、周りの花のせいもあるかもしれないが、心がやけに穏やかだった。
 
 
 
 
「…………」
 
スクアーロは何かを決心したように乗り出し、綱吉のその小さな両肩を掴んだ。
そして、睨むのではなく、真っ直ぐに見つめて言った。
 
「綱吉、逃げろ。実は俺はおまえを殺して来いと命じられた。だが、俺には出来ねぇ。だからといってここで逃しても、また違う奴がおまえを殺しに来るだろう」
 
「………?」
 
「だから、ひたすら逃げろ。ボンゴレの…ザンザスの手の届かない所まで。絶対に家には戻るな、約束しろ」
 
「もう…お母さんやお父さんに会えないの…?」
 
「我慢しろぉ。死にたくねぇだろ?それに、今帰ったら家光達にまで危険が及ぶかもしれねぇ」
 
「そんな…」
 
「だから早く逃げろ。どこでもいい、見つからない所へ。後は俺が上手くやってやるから」
 
「……………」
 
綱吉は見るからに混乱していた。
当たり前だろう。
いきなりこんな事を言われても、まず信じないし言う通りにしない。
7歳でもう両親と会うな、はさすがにキツイだろう。
 
だが、予想外の言葉が返ってきた。
 
 
 
「わかった。俺、もう家には戻らない。1人で別の所に行く」
 
「……出来るかぁ?」
 
「だって俺もうおっきいもん。大丈夫だもん。それより、お母さんやお父さんが危なくなる方が嫌だもん」
 
「綱吉……」
 
 
しっかりしている。
たかが7歳。
されど7歳。
すでに自分よりも守りたいものが出来ている。
その瞳は、先程の不安や恐怖の色ではなく、決意に満ちていた。
 
 
……これが、初代ボンゴレの血を受け継ぐ者、か。
 
 
きっと当主になれば立派に部下を、この土地を治めてくれるだろう。
だが、今スクアーロはザンザスに逆らえない。
せめてこの子供を逃がすという選択肢しかないのだ。
 
本人は気づいていないが、彼はすでにこの時点でザンザスより綱吉をとっていた。
 
 
 
 
スクアーロは綱吉の着ている服の端を剣でそっと斬ると、今度は自分の手のひらに浅い傷をつけ、そこから流れる血で服の切れ端を汚した。
偽装工作である。
 
それが済むと、綱吉に向き直った。
 
 
「じゃあ、元気でなぁ」
 
「あの…名前…」
 
「俺のかぁ?」
 
綱吉は頷く。
 

「スペルビ・スクアーロだぁ」
 
「スク、アーロ…」
 
「そぉだぁ」
 
「じゃあ…」
 
綱吉は先程摘んだ花をスクアーロに渡した。
 
「これを、家の先に置いてきてくれる?どうしても母さんにプレゼントしたかったんだ」
 
自分はもう、あそこには帰れないから。
 
 
 
「……わかった」
 
それを受け取ると、スクアーロは切なそうな顔で頷く。
 
 
 
「ありがとう、スクアーロ」
 
「……元気でなぁ」
 
「うんっ」
 
 
元気に返事をすると、綱吉は森の奥へ行ってしまった。
 
 
 
 
 
 
「…………」
 
 
見送る事しか出来ない自分が悔しかった。
 
 
 
 
 
 
スクアーロは沢田家に行き、そのドアの前に彼が必死で摘んだ綺麗な花をそっと置いた。
まだ誰も帰っていない。
 
もうここにとどまる気はなかった。
子供がいなくなって悲しみにくれる2人を見たくはなかった。
 
家光は確かに気に入らない。
だが、綱吉には幸せになってほしかった。
彼を見ていれば、この家庭がどんなに暖かいかわかる。
どんなに幸せだったか、わかる。
 
それを壊したのは自分。
 
 
こんなにやるせない気持ちになったのは初めてだった。
 
 
とりあえず、彼がちゃんと見つからないように逃げてくれればいい。
 
 
 
先程の服の切れ端を握り締め、スクアーロは城へ戻るのだった。
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――
逃がします。
でも持ち帰るのは血のついた服の切れ端。
あれ?スクアーロ別人?気にしない気にしない。
2008.02.28
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