小説1

□Neve Bianco
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綱吉は全てを知った。
自分の素性、両親の事、貴族の事、そしてザンザスの事……。
 
 
そしてザンザスは座ったまま綱吉に抱きつき、人生で初めての弱音をはいた。
 
「……俺は怖かったんだ、おまえの存在が。所詮貴族は血の繋がりを最も優先する。だが俺は9代目とは血が繋がっていない。けど、幼い頃から10代目になる事だけを言われてそう教育されてきた。10代目になれなければ俺はどうなる?俺の居場所なんてどこにもなくなる………いや、元から居場所なんてなかったんだ…親に捨てられたあの時から……」
 
綱吉は恐る恐る抱きしめ返す。
身体は自分の一回りも二回りも大きいのに、すごく小さく感じる。
すごく、愛しく感じる……。
 
 
「…俺じゃダメですか?俺がザンザスさんの居場所になります。離れる時は笑顔で見送ります。帰ってきたらそれ以上の笑顔で迎えます。俺がザンザスさんの帰る場所になります」
 
「……………」
 
ザンザスは、全ての重たいものが消えていくのを感じた。
 
 
きっと彼がいれば大丈夫、そう確信する。
 
彼がいれば、居場所に怯えることもない。
 
彼がいれば、何かが変われる気がする……。
 
 
 
だが彼を一緒に連れて行くという事は、貴族の権力争いやら抗争やらに巻き込む事を意味する。
それでも、自分には彼が必要だ。
 
 
 
 
「綱吉」
 
「はい」
 
「一緒に来る気はあるか?」
 
「一緒に……」
 
「ボンゴレの城だ。おまえが10代目だ」
 
「え………えぇ??!!」
 
あまりに突然すぎて、綱吉は声を裏返した。
 
「だだだって、ザンザスさんは10代目になりたいんじゃ…」
 
「それは、そこしか居場所がないと思っていたからだ。おまえっつー居場所が出来た今、特に10代目の座に未練はねぇ」
 
「そ、そんな……」
 
「それに、おまえの方が適任だと俺は思う」
 
そう言い切るザンザスに、綱吉は戸惑いを隠せないでいた。
 
確かに自分は初代の血を受け継いでいるらしい。
だが、勉強だってたいして出来る訳でもないと思うし、強くないし、威厳もないし、そもそも貴族の事だって今知ったばかりだ、それらのトップに立つなんて事が出来るはずがない。
 
だがそんな彼の考えを察したかのように、ザンザスはフッと微笑んだ。
 
「俺がおまえの支えになる。おまえを守る。不満か?」
 
「……ううん、全然」
 
 
不思議だ、と思う。
先程まで自分を殺そうとしていた相手が、今度は守ると言ってくれた。
あれだけ首を強く絞められたのに、目の前の彼が愛しくてたまらない。
 
 
 
「ザンザスさん…俺、貴方の事、好きかもしれません」
 
「カスが。俺はとっくにテメェを愛してる」
 
それからどちらともなく顔を近づけ、唇を交わした。
 
 
 
 
 
 
 
 
綱吉は小屋へ帰ると一部始終を小人達に伝え、帰り支度を始めた。
彼らはとても寂しそうだったが、綱吉のこれ以上ないくらいの幸せそうな顔を見て何も言えなくなってしまった。
 
必ずまた会いに来ると約束し、綱吉はザンザスと共に森を抜けた。
 
 
 
まず寄ったのは、やはり両親の元。
 
家のドアを開けると、ちょうど2人共そこにいた。
突然の来客に一瞬呆けるが、すぐに自分達の息子だとわかる。
 
奈々は綱吉に抱きつき喜びに涙を浮かべ、家光もそんな2人ごと抱きしめて大泣きをした。
 
 
 
 
 
 
それからどうなったかというと、まずザンザスは綱吉が10代目になるために出来る限り手を尽くした。
綱吉もそれに応えるべく努力した。
 
彼の両親も城へ戻った。
昔とは違い、身分差の結婚はそう珍しい事でも非難される事でもなくなっていた。
 
次々に来る新しい事に戸惑いながらも、綱吉はザンザスと共に着実に10代目らしくなっていった。
しかしその優しさや笑顔は前と何も変わらない。
小人達にも月に何回か会いに行き、城へ招待する事もあった。
 
 
 
城の中には、穏やかさと明るさが満ちていた。
 
 
「ルッスーリア、久しぶり!!」
 
「久しぶりツナちゃん!!最近どぉ?」
 
鏡の精は腰をくねくねさせながら尋ねる。
 
「忙しいけど、楽しいよっ」
 
「それは良かったわ」
 
「それに、ザンザスもいるし」
 
もう敬語やさん付けもやめた。
だって、2人は対等なのだから……。
 
 
「やっぱり予想通りになったわね」
 
「え?決まってたって事?」
 
するとルッスーリアは首を横に振った。
 
「違うの、魔法の鏡は真実はわかるけれど、未来は予測出来ないわ。だから、これは私が勝手に思った事」
 
「そうなの?」
 
「えぇ。今こうなっているのは、運命が決めた事じゃない、貴方達が自分で決めた事よ。……それが真実」
 
「ルッスーリア…」
 
 
「ほらっ、今日は小人達が来る日でしょ?迎えてあげなくていいの?」
 
そうだ、今日は久々に彼らと会える日。
 
「この部屋に呼ぶね!!ルッスーリアも紹介したいんだ」
 
「それは楽しみだわっ」
 
 
その時、部屋のドアが開いた。
 
「おい綱吉、あいつ等来たぞ」
 
入って来たのはザンザス。
不機嫌そうにそう報告した。
 
 
「みんな元気かなぁ?」
 
幸せそうに微笑む綱吉の笑顔は、城中のどんな宝石よりも美しく輝いているのだった。
 
 
 
 
 
 
数年後。
ボンゴレ貴族は目覚しい発展を遂げる。
 
そのトップは、太陽のように輝く10代目と、月のように陰ながら10代目を支え照らし出す特殊部隊ヴァリアーボスであった。
 
 
 
 
 
 


 
→後書き
 
 
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