小説1

□Neve Bianco
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リベンジとばかりにまた森へやってきたザンザス。
そうだ、今度こそあの沢田綱吉を消すのだ。
 
どうやら彼は過保護にされている割には1人で外出する事が多いらしい。
おそらく小人達では小さくていろいろと不便だからだろう。
 
 
 
今日も綱吉は、森へ食料や材料を取りに出かけていた。
もちろん、その後をザンザスがつける。
 
 
 
だいぶ小人達の小屋とも離れたので、そろそろいいだろうとザンザスは綱吉の前に姿を現した。
突然見知らぬ男が目の前に立ち、綱吉は驚く。
 
「あの……?」
 
「沢田綱吉、だな」
 
「は、はい…」
 
こんな会話、前にもした事がある。
そう、確か………
 
「まさか…」
 
綱吉は感づく。
 
 
「ザンザスさん……ですか…?」
 
「ほぉ、あのカスはそんな事まで喋ったのか」
 
カスとはおそらくスクアーロの事だ。
 
「あのっ、スクアーロさんは……元気ですか?!」
 
予想外すぎる言葉にザンザスは一瞬目を丸くする。
まさかそうくるとは思っていなかった。
 
「……ムカつく程ピンピンしてるな」
 
「良かった…」
 
安堵する綱吉をよそに、ザンザスはまたも目を丸くする。
今度は自分の行動に。
 
何故、これから殺す奴の質問に正直に答えてしまっている?
 
 
 
気を取り直すと、ザンザスは綱吉に向き直った。
 
 
「俺はテメェを殺しにきた」
 
「……はい」
 
その返答に、またも意表をつかれる。
これから自分が死ぬというのに…。
 
 
何故この少年は恐怖しない。
 
何故この少年は泣き叫ばない。
 
何故この少年は、そんな目で自分を見る……。
 
 
 
 
 
一方綱吉は、別に恐怖していない訳ではなかった。
正直すごく怖い。
今にも腰が抜けそうだ。
どうやってもこの大柄な男には敵わないだろう。
 
だが、何故だろう。
自分以上に、彼の目が恐怖に満ちているように見える。
まるで、強がって強がってかたくなに心を閉ざした幼い獣のように……。
 
 
 
ザンザスが綱吉の首に手をかける。
抵抗などなかった。
すぐにでも握り潰せそうな細い首。
 
そろそろ許しを請うか……と思った時、またもや予想外の言葉が途切れ途切れに彼の口から放たれた。
 
 
「っ…貴方は、それで…幸せ、です、か…?」
 
 
「な……に………?」
 
 
「貴方、は……俺を、殺せば…そんな目、を、しなく…なります、か?」
 
 
「………何を……」
 
 
思わず手の力が緩む。
それを機に、綱吉はさらに続けた。
 
「俺は今、怖いです。すごく怖い、怖くて怖くてたまらない。…っでも、俺には貴方の方が、何かに怖がっているように…見え、ます……っカハッ」
 
思わずむせる。
だが綱吉は、その真っ直ぐな目だけはそらそうとしなかった。
 
「俺が…怖がっているだと…?」
 
また手の力が強くなる。
綱吉はそれに眉をしかめながらも、なおもザンザスを真っ直ぐ見続けた。
 
「っ俺は、貴族…とか………話……よくわから…けどっ………それで、も……貴方が…悪い、人…じゃな……事は……っわか、る……」
 
 
「………………」
 
ザンザスは手を離す。
ドサッと草むらに落とされ、綱吉はしばらくむせた。
 
 
「俺が悪い人じゃない?たった今テメェを殺そうとしてる奴がか?」
 
「っケホッ……は、はい……俺、人を見る目は…あるって、思ってます…」
 
むせながらも、綱吉はまた立ち上がる。
その目は相変わらず澄んでいて、真っ直ぐ彼を見据えていた。
 
それからニコッと微笑む。
この状況で到底あり得ぬ表情だった。
 
だがその笑顔に、ザンザスは全身の力が抜けるのを感じた。
 
 
「ザンザスさんはきっと、今まで1人で生きてきたんでしょう?」
 
「当たり前だ、周りの奴らは邪魔なだけだ。せいぜい駒として使うくらいだな」
 
「でも、貴方は寂しいって目をしてます」
 
「何?」
 
「実際、人間って1人じゃ生きていけないんですよ、きっと。少なくとも俺はそうでした。最初は家族が、次は小人達が俺の支えになってくれた。だから俺は、今こうして立っていられるんです。だから俺は、こうして貴方と話が出来るんです」
 
決して、命が助かりたくて言っているわけではない。
ザンザスもそれはわかった。
 
 
 
今まで1人だった。
部下は何人もいた。
父親だっていた。
けれど、誰も決して自分と対等ではなかった。
 
次第に心は閉ざされていき、どうしようもできない感情は暴力へと走った。
だが、何人殴ろうが何人蹴飛ばそうが何人殺そうが、気持ちが晴れる事はなかった。
 
 
 
 
「ザンザスさん、俺に言いたい事言ってみませんか?どうせ殺されるんです、何言ったって大丈夫ですよ」
 
またニコッと柔らかく笑う綱吉。
 
次の瞬間、ザンザスは彼を抱きしめていた。
抱きしめられた綱吉は戸惑うばかりであった。
 
 
 
 
今気づいた。
 
自分に足りなかったもの。
 
 
それは、この心をさらけ出せる存在。
 
対等に意見を言える存在。
 
 
だから9代目は、沢田家光を城へ迎え、自分と同等の権力を与えたのだ。
 
部下のスクアーロが言っていた言葉、今ようやく全て理解出来た。
 
 
 
未だ慌てふためく綱吉を解放し、ザンザスは今までの全ての事を話し出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――
もうわけわかりません。
でもクライマックスに向かってます。
ザンザスは中身は子供だけど、気づけば理解して受け入れるだけの器量はあります。
綱吉の笑顔がそうさせたのだけれど。
2008.08.22
 
 
 
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