小説1

□兄弟
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「………………」
 
 
なんと言っていいかわからない。
兄じゃないと言われてしまえば、もう「お兄ちゃん」とも呼べない。
 
するとザンザスが綱吉の頭を優しく撫でた。
 
「悪かったな、あんな言い方して」
 
そこには、確かにあの優しい兄がいた。
 
「でも、本当の事だし…」
 
 
「戸籍も戻した」
 
 
「え……」
 
そこまでは知らなかった。
 
 
「俺、もう弟じゃないの…?」
 
「あぁ」
 
「っ…………」
 
本日2回目の衝撃だった。
まさかここまで拒否されるとはさすがに思っていなかった。
 
 
 
「……降ろして」
 
「あ?」
 
唐突な綱吉の言葉にザンザスは眉をしかめる。
 
「俺達、もう関係ないんでしょ?だったら……」
 
「綱吉…」
 
「そんなに優しく呼ばないでよ!!」
 
半分ヒステリックになって綱吉は叫ぶ。
そしてなおも続けた。
 
「お兄ちゃんはっ……お兄、ちゃんであって…っお、お兄ちゃん、じゃ、ない…ん、でしょ?」
 
最後の方はもう半泣きだった。
 
だって、兄弟という繋がりをなくしてしまったら、自分達は何だというのか。
 
 
そんな彼をザンザスは覆いかぶさるように抱きしめる。
中で抵抗されるが、離さない。
 
そして綱吉の頭を掴み、半ば無理矢理上に向かせる。
何かをされるのかと思ったのか、その顔は恐怖に歪み、涙で濡れた目をきつく閉じていた。
口もきつく結ばれ、ザンザスはそんな唇に己の唇を重ねる。
 
痛みではない感触に驚き綱吉が目を開ければ、なんと兄にキスをされていた。
 
触れただけの唇はすぐに離れる。
 
 
「……へ?…お兄…ちゃん……?」
 
目を丸くする元弟に、「兄じゃない」と繰り返す。
 
「確かに、おまえが生まれた時は弟だった。だが成長していく綱吉を見て、もう弟とは思えなくなっていた」
 
「……?」
 
未だ混乱中の綱吉。
ザンザスは続ける。
 
「弟として好きなんじゃない。1人の人間として、綱吉、おまえを好きになった」
 
「…1人の……人間……」
 
その言葉を繰り返すが、いまいち頭が働かない。
 
するとザンザスは「相変わらず鈍いな」と苦笑して優しく抱きしめる。
 
そのぬくもりは、6年前とは少し違っていた。
 
 
そのまま、ザンザスは綱吉の頭上で話す。
 
「つまり、おまえにも俺の事を兄ではなく1人の人間として、1人の男として見てほしいって事だ」
 
「1人の…男……」
 
 
段々わかってきた。
 
つまりはザンザスは弟という意味ではなく好きだと言って、それはつまり………
 
 
「ぇええぇえぇぇ??!!」
 
 
思わず奇声が出た。
 
その様子に「ようやく理解したか」とザンザスはため息をつく。
 
 
「今すぐってわけじゃねぇ。いつか返事をくれ」
 
 
「う…うん………いい、よ……」
 
 
「あぁ。……って、ん?今のは告白の返事か?」
 
「……うん」
 
小さく頷く綱吉。
 
 
「ちょっ…待て待て、もっと考えてからでもいいんだぞ?!」
 
何故かザンザスが焦る。
 
だが、綱吉とて流されて返事をしたわけではない。
 
彼が好きなのだ。
 
兄弟を否定された時、疑問に思った。
兄を否定されたのはショックだったが、それよりもショックだった事。
 
もう会えなくなるんじゃないか……そう不安になった。
 
何故そう思った?
 
兄に会えなくなるから?
 
……いや違う。
 
“ザンザス”に会えなくなるから。 
 
 
 
 
 
 

――――――――――――――――――――
一旦区切ります。
2008/02.05
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