小説1

□恋
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そして、その時が来た。
 
連れて行かれる日。
 
ただ、綱吉ではない。
 
 
 
凪だ。
 
 
 
 
黒いスーツを着た男に引っ張られる凪。
 
綱吉は懸命に凪の手にしがみつき引き止めようとするが、もう1人の男によってその手はあっけなく離されてしまった。
 
 
 
 
「凪っ!!凪ぃ!!!!」
 
 
「ボス・・・・・・どうか無事で・・・」
 
 
 
 
バカ、なに人の心配してるの?
 
 
 
少しは自分の事も考えてよ
 
 
 
 
 
こんな時でも
 
 
 
優しい子
 
 
 
 
ねぇ神様
 
 
 
 
何故こんなに優しい子まで
 
 
 
 
 
貴方は見放すの?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「凪・・・・・・」
 
 
 
 
ガチャンと、閉められた檻の鍵がすごく大きく寂しく聞こえた。
 
 
まるで、私達の仲を完全に引き裂いてしまったみたいに・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3日後、とうとう綱吉が檻から出された。
 
その間、彼女はただひたすらに連れて行かれた凪の無事を祈った。
 
祈るしか出来ないなんて情けない。
 
それでも、そうする事しか出来なかった。
 
 
 
スーツの男に連れられて、ある倉庫のような所に入った。
 
それから、服を全部脱がされた。 
文字通り、全部。
 
抵抗なんて意味をなさなかった。
 
 
裸にされたところで、また檻に入れられた。
 
今度はもっと小さな檻。
 
自分1人が入ってギリギリだった。
 
 
身にまとう物が何もない。
 
それがすごく心細かった。
 
 
クゥ、とお腹が鳴る。
 
こんな時でもちゃんと鳴るんだなんて、場違いな事を考える。
 
 
 
みんながいた檻では、一応は1日に2回くらい申し訳程度の食事が運ばれていた。
 
簡易トイレもあった。
 
 
ただここには何もなかった。
 
それが、すぐに売られるんだという事を確信づけていた。
 
まるでサーカスに出される前の獣みたい。
 
きっとそれ以上の酷い扱いを受けるんだろうなと、人事のように思う。
 
 
 
それから数時間後、綱吉は競売にかけられた。
 
檻に入れられたまま、何処かの会場のような場所の舞台に運ばれた。
 
いきなり光が当てられ、見渡せばスーツを着た外人の男ばかり。
しかもその人達の視線は全て自分に向けられている。
 
何もまとっていない、生まれたままの姿の自分に。
必死に前を隠そうとすれば、檻の外から手が出てきて手首を後ろで縛られた。
 
しばらく光の中で散々見られ、また暗い場所に運ばれた。
 
 
 
綱吉の目からは、とっくに涙が流れていた。
 
恥ずかしさや不安や恐怖で。
 
 
それから、やっと服をもらった。
といっても先程まで着ていたものではなく、もっと質素なもの。
 
それでも、それがすごくありがたかった。
 
 
 
向こうはイタリア語でたまに何かを話すが、全くわからなかった。
 
 
そしてやっと檻から出されたかと思うと、目の前に外人のおじさんがいた。
 
スーツの男達とは違って、ちょっと金持ちっぽい服装。
 
それを見てわかった。
 
 
 
 
この人に買われたんだ、と。
 
 
 
 
 
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