小説1

□恋
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思えば、ろくに下調べもせずにここに来たのが間違いだったのかもしれない。
 
 
 
中学を卒業したばかりだというのに、親達の反対を押し切って綱吉は友達とイタリアへ旅行に行った。
 
特に何ということはない、ただ中学の友達と中学生最後の思い出を作りたくて、話し合っていたら盛り上がって、いつの間にかイタリアへ旅行に行こうという事になったのだ。
 
お金は、おこずかいや親からもらったり借りたりでなんとかなった。
 
 
 
そしてイタリア語の本を片手に、綱吉は3人の友達と共に出かけたのだった。
 
 
一緒に旅行に参加したのは、3人共中学3年の同じクラスですごく仲が良かった人達。
おっとり系の笹川京子に、しっかり者の黒川花、元気印の三浦ハルだ。
4人でいつも一緒にいた。
 
だから、全員高校が別だとわかった時はショックだった。
でもどうしても最後に何かしたくて、中学生だけで旅行なんて無謀な計画が実行されてしまったのだ。
 
 
 
 
パスポートも用意し、飛行機に乗ったのは良かった。
外人のスチュワーデスさんとも、身振り手振りでなんとか会話出来てしまうものだ。
 
 
 
そしてイタリアに着くと、まず賑やかな通りで買い物を楽しんだ。
 
 
途中、もともと体力のない綱吉は少し疲れてしまい、3人が店で買い物を楽しんでいる間は店の裏で休んでいたのだ。
 
そんな時、1人のたぶんイタリア人が声をかけてきた。
生憎何を言っているのかさっぱりだったが、フレンドリーな感じのいい青年だった。
 
そして内容のわからない相手の話をしばらく聞いて、合間にジュースをもらって、そしたら眠くなってきたて・・・
 
 
 
 
目が覚めたら・・・・・・そこは地獄だった。
 
 
 
 
 
 
 
冷たいコンクリート。
 
 
目覚めの感触はそれだった。
 
そしてゆっくり目を開けると、見えたのは檻のような柵。
 
起き上がると、そこにいるのは自分1人ではないとわかった。
10人近くの、自分と年齢が同じ様な子供達がいた。
 
 
すごく寂しそうに。
 
中には膝を抱えて震えている者もいた。
 
 
綱吉は近くにいた女の子にそっと話しかけてみた。
 
 
「あのう、ここは何処なんですか?」
 
すると話しかけられた女の子は一瞬驚いたが、すぐに首を傾げる。
質問の内容以前に、どうやら言葉がわからないらしい。
よく見れば金髪だし、目も青い。
あまりにここが暗かったから気づかなかった。
 
 
 
「貴方・・・日本人?」
 
後ろからそう声がかかった。
 
綱吉が振り返ると、そこには黒髪黒目の可愛らしい女の子がいた。
 
 
「はい・・・。良かった、言葉が通じる人いたんだ・・・」
 
 
その女の子は日本人で、六道凪と名乗った。
 
どうやらイタリア語も少しは聞き取れるらしい。話す事は出来ないが。
 
 
そして、ここにおかれている状況を教えてくれた。
 
 
見てすぐにわかったが、やはりここは檻の中らしい。
 
子供、主に女の子がたまに連れて来られてここに入れられる。
そして入ってくる者と同じくらい出て行く者もいる。
 
 
連れていかれるのだ、スーツを着たイタリア人によって。
 
 
 
 
凪も綱吉と同じだった。
 
家族でイタリアに旅行に来ていて、途中ではぐれてしまって、そうしたら感じのいい男の人に声をかけられて飲み物を奢ってもらって・・・ここに連れてこられた。
 
どうやら綱吉の時も凪の時も、そのもらった飲み物に睡眠薬のようなものが入っていたらしい。
 
 
そしてもっと驚いたことは、ここにいる子供達は何処かに売られるらしい。
 
つまりは、人身売買。
 
 
凪は生まれつき薬などの効き目があまり長く続かず、毒などの耐性もある程度ある。
それで、睡眠薬も早くに切れてここに着く前に目が覚めたのだ。
その時、男達が話しているのを聞き、自分のこの状況を理解した。
 
 
 
「じゃあ、えと、凪さん・・・私達、売られちゃうって事・・・?」
 
「凪でいいわ、ボス。そうね、たぶんそうなるわ」
 
「ボス?」
 
「あ、そう呼んでもいい?だって、初めてこうして話せる相手が来たんだもの。私の中ではボスみたいなもの」
 
「う・・・うん・・・?」
 
なんだか不思議な子だ。
 
すごくいい子なのだけれど。
 
 
「そうなるってわかってるのに、すごく冷静なんだね」
 
「ボスこそ」
 
「私はまだ実感が湧かないだけ。でも、どうしようもないよね」
 
「・・・えぇ。売られた後は、どうなるかわからない。もしかしたら逃げ出せるかもしれないけど、可能性は低そう」
 
「殺される・・・のかな?」
 
「いろいろよ。臓器を欲しがる人もいれば、奴隷を欲しがる人、私達には理解出来ない趣味を持った人もいるはずだから、本当に、どうなるかはわからない・・・」
 
「詳しいんだね、凪」
 
「男達が話していたのを聞いたからよ。といっても完璧になんてわからないから、単語単語でそうかなって。寝ていると思ったのか、それとも東洋人だから言葉はわからないと思ったのかは知らないけど、結構おしゃべりだったわ、私を運んだ人」
 
 
すごいと思う。
 
きっと自分だったら目覚めた瞬間に泣き叫んでいただろう。
 
 
「なんか、凪の方がボスって感じ」
 
「やだ、ボスはボスだけよ」
 
そう言って微笑む凪。
 
 
彼女がいてくれて良かった。
 
すごく怖いはずなのに、今すぐにでも泣き出したいはずなのに、それでも同じ様な境遇にいる女の子がこんなにも強く頼もしい。
 
だったら、自分だって泣けない。 
弱音は吐けない。
 
そもそも私は凪とは違って、自業自得なのだ。
 
こんな歳で無理矢理外国なんかに行って。
 
どれだけ危険かも考えずに。
 
 
 
「とにかく、何処へ連れて行かれてもどんな事をされても、それでも、生きていられたなら、私はもう一度ボスに会いたいわ」
 
 
「凪・・・」
 
 
私も、そう言って綱吉は凪に抱きついた。
 
初めて会ったはずなのに、全然そんな感じがしない。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
すごくすごく、優しい子
 
 
 
 
 
神様どうか
 
 
 
この子を守って
 
 
 
この優しい子を
 
 
 
 
 
私では
 
 
 
 
助けてあげることが出来ないから
 
 
 
 
 
 
 
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