小説1
□恋
11ページ/14ページ
そんな事を悶々と考えていると、ノックの音が聞こえ、母である奈々が入ってきた。
「ツッ君、ちょっといいかしらぁ?」
「うん、何?」
すると奈々は、ベッドに座っている綱吉の横にちょこんと座った。
「ツッ君、何か悩み事?」
「え?・・・どうして?」
「そりゃ母親だもの、わかるわよ。最近ゲームしてないでしょ?音が全然聞こえてこないもの。この時間、ずっとこうしていたの?」
するどい。さすが母親というものは違うなと綱吉は思った。
「イタリアから帰ってきてから、かしら。もしかして、まだ時々辛い事を思い出してしまうの?」
それもたまにあった。
あの恐怖はそう簡単に消えるものではない。
でも、大半はそれではなかった。
「何かあるなら、良かったら母さんに話してみない?言葉に出した方がすっきりするわよ?無理にとは言わないけど・・・」
少し考えた綱吉だが、母に相談してみる事にした。
一応結婚もしているのだ、話したら何か変わるかもしれない。
そして、ザンザスに会ってから空港での事まで、たどたどしく綱吉は話した。
「そうなの・・・ツッ君モテるわね〜」
聞き終えた奈々の第一声はそれだった。
「そうじゃなくて、どうしてザンザスさんが私を気に入ったのか、わからないの」
「そんな事わからなくていいじゃない」
「は?!」
奈々の言葉に、綱吉は思いっきり奇声をあげる。
「恋なんてそんなものよ。相手が何を考えているかなんて、気になってもわからないものなの」
「はぁ・・・」
「それより、大事なのは自分がその人をどう思っているかよ」
「・・・・・・・・・」
「ツッ君はザンザス君の事、どう思っているのかしら?」
「・・・どう思っているか・・・・・・」
わからない。
ザンザスが何を考えているかわからないのと同じくらい、わからない。
自分の事なのに。
その気持ちを素直に言うと、奈々は「それじゃあ」と続けた。
「ツッ君は、ザンザス君はどんな人だと思う?」
「どんな人・・・」
「そう、印象とか思った事とか」
「・・・いい人だと思う。強面のくせにすごく優しいし、カッコイイし。でも、ちょっと可愛くも見えたんだ」
電話を使わせてもらった後に会いたいと言われた時とか、空港で告白された時とか。
少し自身がなさそうに小さな声で言うところが特に。
「また、ザンザス君に会いたい?」
「そりゃあ、会いたいよ。でも、そう簡単に会っちゃいけない気がする」
「あら、どうして?」
「だって、ザンザスさんは真剣に私を想って会いたいって言ったと思うから」
「じゃあ、ツッ君は真剣に会いたいと思ってないの?」
「思ってるよっ」
「じゃあいいじゃない」
「え・・・・・・?」
「お互い真剣に会いたいって思って、何で会っちゃいけないの?」
「・・・・・・」
確かに。どうしてだろう。
「ツッ君は、自分のその感情が恋愛感情かどうかが気になるんでしょ?」
「・・・うん」
「母さんにはそれはわからないけど、実は父さんと会った時、似たような事があったのよ」
「え?」
「そうねぇ、付き合って、でも結婚前の頃、あの人が少し遠くに行く予定があって、その直前、私のところに来たのよ」
「へぇ・・・」
「それで言うの。“結婚してほしい。ただ、すぐには決めなくていい。俺が向こうに行っている間に考えてくれ”って」
「・・・それで、どうしたの?」
「実は母さん、その時迷ってたのよ。もちろんあの人の事は好きだったわ。でも、結婚っていうといまいちピンとこなくてね。だから、時間をくれたのが本当に嬉しかったの」
「それで、オーケーして結婚?」
「そうね、そうなるわ。でも、よく考えてみてわかった事があるの」
「何?」
「あぁ、私はこの人の優しさが好きなんだな、って。私が答えを出すまでずっと待っててくれたその優しさに、これだったら一緒にやっていける、そう思ったわ」
「・・・・・・」
「ツッ君が母さんと同じ様に思ってるかどうかはわからないわ。だから、これは1つの例として考えてくれればいいの」
「・・・うん」
「はっきりとこれが恋愛感情っていうのは、母さんにもよくわからないの。でも、あの人とずっと一緒にいたい、その気持ちは本当だったわ」
「・・・・・・」
「ゆっくりでいいのよ。焦ってもいい事はないわ。ただ、いつでも自分に正直にね」
「母さん・・・」
「じゃあ、お風呂の用意してくるわね」
そう言って奈々は部屋を出て行った。
「・・・・・・自分に正直に・・・」
携帯を握り締め、そして初めて、綱吉はそれを開いた。