小説1

□お隣さん
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次の日、綱吉はいつも通りだった。
 
ただ、顔を合わせると照れたように「おはよう・・・」と言った。
 
それでも、どこかすっきりしたような顔だったので安心した。
 
 
そしてこの時、ザンザスはある決断をしていた。
 
 
今日は土曜、夕方までに綱吉は帰ってくる。
 
それまでに、アパートの住人に対してやっておく事があった。
 
 
 
 
 
 
 
夕方。
 
いつものように綱吉の部屋で彼の手料理を食べる。
 
いつもより味わって食べた。
 
そして綱吉は学校やバイト先での出来事を話す。
これも週間になっていた。
 
 
綱吉は一通り話し終えると、先程煎れた日本茶を飲む。
 
 
すると、普段滅多に話さないザンザスが口を開いた。
 
 
 
「・・・・・・綱吉」
 
「ん?」
 
何だろうと思い、とりあえず湯飲みを置く。
 
 
 
「・・・俺は家出をしてここへ来た」
 
 
「っ・・・・・・」
 
 
嫌な予感がした。
 
彼は今まで、自分の事はほとんど話さなかった。
ここへ来た理由も言わなかった。
 
 
だからこそ、怖い。
 
何故今になって言うのか・・・・・・。
 
 
 
ザンザスは続けた。
 
 
「親や周りの期待がプレッシャーとなって、嫌になったんだ。誰も俺自身を見てはいないと感じた」
 
 
「・・・うん」
 
 
・・・嫌だ。
 
・・・怖い。
 
それ以上話さないで・・・・・・。
 
 
 
「だが、ここの連中は違った。俺自身をちゃんと見てくれた。綱吉、おまえも」
 
「・・・・・・うん」
 
 
聞きたくない。
 
 
「おまえの話を聞いて、俺はただ我が儘で甘えていただけだとわかった」
 
「・・・・・・・・・うん」
 
 
やめて・・・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
「俺は、ここを出る」
 
 
 
「っっ・・・・・・・・・」
 
 
「いつまでもここで甘えているわけにはいかない。家に戻って強くなる。そして、本当の意味で自立する。おまえのように」
 
 
「・・・・・・・・・」
 
 
「他のみんなには挨拶を済ませてある。最後に、おまえにちゃんと話したかった。1番世話になったしな」
 
 
「・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
嫌だ。
 
もっと一緒にいたい。
 
このアパートで沢山笑い合いたい。
 
何故だろう。
 
とにかく、彼がいなくなるのがすごく嫌だった。
 
 
止めたい。
 
すがり付いてでも引き止めたい。
 
でもいけない。
 
それこそ甘えてる。
 
 
彼は今、ひとつの殻を破る寸前にいる。
 
それを邪魔してはいけない。
 
背中を押してあげなくちゃ。
 
彼の決意を喜ばなくちゃ。
 
 
 
でも、次々に流れ落ちる涙までは止めることが出来なかった。 
 
 
 
「・・・・・・綱吉・・・」
 
 
ザンザスが綱吉に触れようとしたその時、彼はいきなり立ち上がり、涙もふかぬまま無理に笑い、言った。
 
 
「そっそれが、いいよ・・・っ。ザンザス、さん・・・だもん、きっと出来る、よ・・・」
 
 
そして綱吉は外へ飛び出していった。
 
 
 
追いかけたかった。
 
それでも、ここで追いかけたら決意の全てが崩れる気がした。
 
彼も、あれが精一杯の別れの言葉なのだろう。
 
 
 
 
 
「・・・・・・すまない。・・・ありがとう」
 
 
誰もいない部屋にそう言い残し、ザンザスはドアを閉めた。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――
切ない別れ。
お互い一緒にいたいけど、自分に甘えられない。
今は別れるしか選択肢がない。
一応、まだ続きます。
2007.12.04
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