小説1

□お隣さん
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隣の住人、沢田綱吉と会ってからというものの、ザンザスは何故か彼の行動を気にするようになっていた。
 
 
1週間程たつと、大体の生活スタイルがわかってきた。
 
まず、朝は結構早い。
6時には部屋を出る。
そして帰ってくる時間は遅い。
ほとんど真夜中だ。
土日だけは昼頃に出かけ、帰るのも夕方と早かったが。
 
自分が学生の時は、もっと時間に余裕があったと思う。
雰囲気からして、夜遊びをしているようにも見えない。
第一、もしそうだとしたら朝早い理由がわからない。
 
 
ザンザスはといえば、ほとんど部屋にいた。
 
そろそろ、ある人物に頼んでおいた偽の身分証明書が出来上がる頃だ。
それから適当に仕事を探すつもりなのである。
だから、それまでは暇だった。
 
食事も、コンビニ弁当かたまにの外食のみ。
作ろうかとも思ったが、まず何をしたらいいか、何が必要なのかがわからなかったので断念した。
 
 
 
 
 
 
そんなある日の夕方、部屋のベルが鳴った。
 
一瞬身構えたが、直感的に大丈夫だと思い、だが一応用心しながら応対する。
 
 
「誰だ」
 
 
するとドアの向こうからは、この緊張感をぶち壊すのに十分な程の、明るく優しい声が聞こえてきた。
 
 
『こんばんはっ、お隣の沢田です。ちょっといいですか・・・?』
 
例の沢田綱吉だった。
 
断る理由もないので、とりあえず部屋の中へ上げた。
 
ちゃんと顔を見たのはこれが初めてと言っていい。
思ったより童顔で、小動物を思わせた。
 
 
 
 
 
「ふわ・・・片付いてる・・・」
 
辺りを見回し、一言そう呟く綱吉。
自分の部屋は物が多い上に全く片付いていない。
戻ったら少し整理しようかなと思った。
 
 
備え付けの座布団に勧められて正座で座る。
 
 
 
「で、何だ?」
 
ちゃぶ台を挟んで向かいにあぐらをかくと、ザンザスは言った。
 
それから綱吉はそういえばと言って慌てて持ってきた箱をちゃぶ台の上に置く。
そしておずおずと蓋を開けた。
 
「これ・・・作ったんですけど、ちょっと作りすぎちゃって・・・・・・良かったらと思って持ってきたんですけど・・・・・・」
 
食べられますか?と聞かれて箱の中身を見てみれば、そこにはまだ少し湯気のたっている煮物が入っていた。
 
「あああのっ、味はたぶん大丈夫だと思いますっ、昔からよく作ってたんで料理だけは結構自信あるのでっ」
 
わたわたする綱吉をよそに、ザンザスはおもむろに煮物を1つ手で摘んで口に入れた。
 
煮物くらいは知っている。
親が何故か日本大好きな人間で、食事もたまに日本食だったりした。
もちろん一流のシェフが作るのであるから、完璧なものだ。
 
だが、そのどんな料理より、この煮物は美味しかった。
なんというか、懐かしいような気持ちになる。
この味は今初めて食べたはずなのに、何故かそう感じた。
もっと食べたいと思った。
だがこのまま素手で食べるわけにもいかず、台所から箸を持ってきて他の具も食べてみた。
どれも美味しく、これはもうコンビニ弁当は食べられないなと思った程だった。
 
 
そんなザンザスの様子を不安げに見つめる綱吉。
食べてくれているからには嫌いではないらしいが、無言で食べ続けるザンザスを前に、どうしようかと困っていた。
 
 
「あの・・・・・・どう・・・ですか・・・?今気付いたんですけど、ザンザスさんってイタリア人なんですよね。なのに俺思いっきり和食持ってきちゃって・・・」
 
考えが足りませんでしたと落ち込む綱吉に、早くも食べ終わってしまったザンザスが「うまかった」と、一言そう言った。
 
 
 
その後ものすごく嬉しそうに満面の笑みで笑った綱吉の顔を、彼はきっと一生忘れないだろう。
 
 
例えこの先何が起ころうとも・・・・・・。
 
 
 

 
 
 
 
 
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ちょっとは・・・いい雰囲気になってる・・・かな?
2007.11.20
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