バースデー

□前へ、未来へ
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「あなたの夢は何?」



そう言われたときに私は答えることができなかった。
いつまでも逃げてきた現実。
時間が解決してくれるとばかり思っていた現実。

でも、

いつかは真正面から向き合わなくちゃいけなかった。

逃げ続けてばかりいたら、いつのまにか回りは私よりもずっとずっと前へ前へと踏み出していた。


待って、置いていかないで…


そんな事を呟いても、誰も待ってなんかくれない。
結局は自分で、自分の足で進まなきゃいけない。


ただ、


それを考えるだけで足がすくんだ。
進むのが嫌なわけじゃないけど、怖かった。
後ろばかり振り返っては過去を懐かしみ、ずっとここにいたい、なんて思った。
やりたいことは確かにあるのだけれど、もしかしたら失敗するかもしれない。この選択をしたら後悔するかもしれない。ただなんとなく人生が終わるのかもしれない。
そう思うとキリがなかった。

とにかく不安ばかりで嫌…。


たまらなくなって、私は毎日浜辺でヒトリ泣いた。
泣いても何ができるってわけじゃないけれど。



「どうしたんだ?」



何日も泣き続けて、涙も渇きを訴えてきた頃。
聞いたことのないような声が上から降ってきた。
腫れた目で顔を上げれば、そこには私と年もあまり変わらなそうなのに麦わら帽子を被っている少年が。


『……怖い…』


別に彼だから言ったわけでもなく、まるで自分の中の何かを外へ外へと吐き出すように呟いた。


「怖い?なにがだ?」

『……み、らい…が』

「未来?」


私は小さく頷いた。
思いを声にした分、なんだかさっきよりは気持ちが軽かった。


『先を考えると…不安になって、本当に大丈夫なのかって、不安に…なる』


どうせなら決められた日々を送りたい。
でも、そればかりじゃつまらない。
でも、自分でなんか決められない。
矛盾だらけの自分の心。


「そうか?」


しかし、その少年は、なんでそんなこと考えるんだ?というような声色で疑問詞を投げかけた。


『だって…私、なにも得意なこと…ないし。時間も、ない』

「そうやって考えてばっかいるからいけねェんだろ」


そういわれて、思いっきり彼の瞳を見た。
その言葉には当たり前だといいそうな、自信めいた言葉って目も言っていた。

「なりたいからなる。それだけじゃダメなのか?」

『ダメじゃないけど…私にできるかなんて…』

「できるかどうかが問題じゃねェ」

『?』

「それに本気で向き合えるかが問題だろ」

『でも…それが、怖い』

「怖がってちゃ何も始まらねェよ。なるって思わねェと」


彼は笑って言ってみせた。
まるで呪文のような言の葉を。


『な…る…?』

「あァ!なりたいものがあるんなら、そうやって思うんだ。そうすれば思ったようになるからよ!!」


曇りひとつない瞳で簡単にそれを言う。

あ、なんだろう。この体軽くなった感じ…。
体中が熱くなる。


『じゃあ…あなたのなりたいものって、なに?』

「海賊王だ!!!」

『海賊王!!?』


こんな人が海賊を!?とかいろいろ思う前に、直球で言った彼の夢。そこに躊躇いなんてなかった。

『それって、すごく大変なんじゃ…。だって、海賊の頂点なんだし…』

「だから言っただろ」

『……』

「大変だとかが問題じゃねェ。海賊王におれはなりたいから、前へ進んでるんだ」



「絶対になるんだ、おれは」なんていう言葉がどこか遠くに感じて、でもそれは私や他の人が思う「夢」となんら変わりはなくて。
本当にこの人はなっちゃいそうな感じがした。
それは、きっと…なるって強く思っているから。

手が足が頭が心臓が、私に動けと訴えかけた。

抑えることができない感情が生まれたのを私の全てが感じ取った。
思わず、頬を伝ってばかりいた涙をぐいっと拭い勢いよく立ち上がる。


『私も、頑張る』

「そっか。頑張れよ。おまえならできるさ」

『ホント?』

「ああ!だって、おまえの目、スゲー輝いてるからな」


そんな事を言われて照れ隠しで笑ってみる。
なんだか本当にできる気がしてきた。

私はひとつ彼に礼を言うと、家へ急いで帰りノートをひろげペンを走らせた。

今の自分にできることを一生懸命にやるって決意した、ここから始めなきゃいけないんだって思って。




それからあまり経たない頃。

大量の本を読み漁っている私に

「麦わら帽子を被った少年が海賊王になった」

っていう風の噂が届いて、思わず微笑んだ。






END
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