お題
□大切な記憶
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風になびく髪
クー クー…
海の向こうをカモメが飛んでいた。
無駄に羽を動かさずに、小さな風に乗って。
砂の国の王女は時々、この思い出の場所にくる。
目的なんてないのだけれど。
いつの日だったか、海賊達と別れたこの場所。
仲間を見えなくなるまで見送った場所。
今でも潮の香りがビビの鼻から、体から、心から離れない。
砂漠の地で育った方が月日は長いというのに、何故か海も砂漠と同等に愛おしく思う。
「ねえ、カルー。彼らは今、どんな冒険をしているのかしら」
「クエェ…」
「きっと私達が想像もつかないような冒険をしているのよね」
カルーに語りかけるその表情はとても誇らしげだった。
と、向こうで風に乗って飛んでいるカモメが急に高く高く舞った。
何事かと思って見ると、こちらにもそれがやって来た。
――力強く、包み込むような温かい風がビビとカルーの間を通り抜ける。
ビビは風に靡く髪を耳にかけた。
「!」
そして感じた懐かしい感覚。
潮の香りとは違った香りがした。
これは…あの小さな船にいたときに感じた海の風。
ビビは思わずクスリと笑った。
それから大きく深呼吸をする。
風が運ぶ懐かしい香りを心で噛み締めながら。
(風が囁くいつかの思い出)