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□あなたからの最初で最後の手紙
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ポストの中に一通の切手のない封筒が入っていた。
送り主は不明。
でも、これは誰かから送られてきたのかなんとなくわかった。

エースさんだ。

今朝、食い逃げだとかで追われている彼をかくまった。
逃げ疲れてお腹が空いていたようで、料理をご馳走した。

初対面の人にここまでしてしまったのは、まず第一になんだか放っておけなかったから。
そして第二に―――

代わりにお礼をすると言ってくれた。
でも、今の私は特に困ってもいなかったので別にいらない。って言ったら

「義理は通さなきゃいけねェんでな。」

って言って、引かなかったからその言葉に少し甘えてみた。

『今日だけ、一緒にいてほしい・・・。』

その時の自分はどうかしていたんだと思う。
“一緒にいてほしい”ってわがまますぎる。
でも、それが私のあの時の1番の願いであった。
ずっと一人で住んでいて寂しかったからかな・・・。

彼はしばらく考え込んだ後、笑って

「今日だけならいいぜ。」

と言ってくれた。
(一日の短さを私は実感してなかった)

そして、その日は二人で街へ繰り出した。
ちょうどいろいろきらしていたところだったから、その買い出しに付き合ってもらった。
そこでいろんな話をした。
どんな些細な事でも聞いてくれる彼は、本当はどこかのすごい人なんじゃないかと心の中で思っていた。
(それを口にしたら、遠くに行っちゃいそうな気がした)

その日の夜、私は再びとびっきりの料理をご馳走した。
彼は、見事全部残さず食べてしまったのには驚いたけど。
(心の中は満たされた)




願わくばこのままでいたいと思った。




でも、時間は止まってくれない。
もうすぐ彼はこの家から出て行ってしまう。
一人で旅立つ支度をする彼に何も言うことができなかった。
(ここで止めることができない私は情けないのだろうか)

この気持ちはよくわからない。
ただ、さっきまで心が満たされていたくせに今は少しずつ何かを失いつつある(それは何?)
怯えてる自分が見え隠れしている(何故?)

「んじゃあ、そろそろ行くな。」

『・・・・うん。』

「なんか元気ねェな。」

『そ・・・そんなことないよ!!』(嘘つき)

「そっか。いろいろと世話になったな。」

『こちらこそ・・・楽しかったよ。』(今は泣いてるくせに)

「・・・・じゃあな。」

最後に彼は笑い、ドアを閉めた。


ドアが閉まった音は静寂の中に響き渡って、やけにでかく聞こえた―――






私は、封筒を開けてみた。
中には短い文ではあるが、手紙と――炎のように真っ赤な色をした一輪の花。


[料理うまかったぜ。何回も食わせてもらったからな。そのお礼だ。おれは一緒にいてやれないけれど、その花をおれだと思ってくれ。本当はこんなガラじゃねェんだけどな。あと――また会いに行くから、待ってろよ。約束だ。]


『・・・・・。』

私はその手紙を強く握り締めた。
失われたものが再び満たされた。
私・・・なんだか頑張れる気がするよ。
2度と彼から手紙がくることはなくても、この手紙は私の中で特別なもの。

このとき気づいた。


私は――エースさんが好きだ。


もしかしたら気づかないフリをしていただけかもしれない。
今なら、目を逸らさずにはっきり思える。

そう思えるのがもしかしたら、遅かったのかもしれない。
遅かったかもしれないけど――。
この手紙と真っ赤な花をいつまでも貴方だと思って、また会いにくる日を待ってます。



END



難しい;;エースの話し方とか難しいです。ミルク売りのモーダを思い出しながら書きました。



2008.2/13

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