魂の炎
□ちょっと過去な一話
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「てめぇは、もう要らねぇ」
目の前が、真っ暗になるかと思った。
だって俺は目の前にいる人にだけ付いていくと決めて、覚悟だってしていたのに。
俺は要らないモノなの…?
存在する価値もないモノなの…?
だったらいっそのこと壊しておくれ…。
「せめても情けだ。此処に行け」
ひらりと重力に従いゆらゆらと紙が落ち手のひらに収まる。
その紙には《万事屋銀ちゃん》と書かれていた。
船を出る直前、哀れんだのか女がこう言った。
「――様は本当は慶火君が要らないんじゃなくて、大切で、傷つけたくないから遠ざけようとしただけなんスよ」
あの人が買ってくれた黒に紫の蝶が描かれている傘を差し、強風に煽られながらただただ去っていく船を見つめる。
もうあの人の元には帰らせて貰えないのだろう。
そう思うと涙で視界が滲んだ。
暫くそうやってぼうと空を見つめていた。
誰がなんと取り繕おうが俺が捨てられたことには変わりはないんだ。