○REBORN短編
□遠距離熱帯魚
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「_____会いたいよ」
窓辺に座り、月を見た。
最後に話したのは、彼が一時的脱獄した時。
…と、いっても…会話したのは、十年後の彼、なんだけど。
「……」
…月から目を外して、自室の水槽を見れば、
中で優雅に泳ぐ熱帯魚が目に入る。
水槽に手を滑らせれば、熱帯地方特有の生暖かい感覚と、固いガラス。
ふと肌とは違うそれに、少し目の奥が熱くなった。
「…骸も。こんな気持ちなのかな」
__光も音もない暗闇に独り。
体の自由を奪われ、ただそこにいるだけ。
必要最低限の命は保護されても、生かされているだけに過ぎない。
地上を夢見る深海魚のように、光を求め続けて。
水槽に捕らわれた美しい魚のように、自由を探して。
その先に何もないとわかっていても、
歪む世界で、自分の存在意義を探し続ける。
それは、酷く苦しく、残酷なこと。
でもそれは、私じゃ到底わからないような苦痛で。
なんて私は無力なんだろうと考えてばかり。
彼は、自分が囮になってまで仲間を助けるほど、すごく優しい人だから。
心配しないでください、なんて優しく笑うのだろうけど。
だからこそ、役に立てないことが、すごく悲しくなってくる。
もしかしたら、彼に私は必要ないんじゃないかとか…
もしかしたら、私は邪魔でしかないんじゃないか、とか。
考え始めたら、きりがない。
「…はは、私……やっぱり駄目だなぁ…」
水槽のガラスに手を添えたまま、自嘲的に笑う。
心なしか、熱帯魚まで悲しそうに見えて。
熱くなった目頭を紛らわせるように、また月を見上げた。
_____こんこん
「…?」
ふと、窓をノックする音がして、目を向けた。
テラスに、白いフクロウがとまっている。
「…あのこ、骸の…?」
テラスに出て、骸の匣アニマル、ムクロウを抱き上げる。
「どうしたの?」
すると、ムクロウは、くちばしに咥えているものを私に見せた。
「…私に?…手紙とか、かな…?」
綺麗に畳まれた手紙らしき紙切れを広げれば…
見慣れた字で書かれた、イタリア語。
「!…こ、れは…」
思わず、口に笑みが浮かび、顔が熱くなる。
素晴らしいお使いをしてくれたムクロウを、強く抱きしめて、月を見上げて。
「________Anche io」
“抱きしめられたままの梟の右目は”
“紅く、六の字が刻まれていて”
遠距離熱帯魚
(Anche se separ, io ti amo.)
(離れていても、僕は君を愛しています)