○REBORN短編

□遠距離熱帯魚
1ページ/1ページ
















「_____会いたいよ」









窓辺に座り、月を見た。


最後に話したのは、彼が一時的脱獄した時。

…と、いっても…会話したのは、十年後の彼、なんだけど。




「……」




…月から目を外して、自室の水槽を見れば、
中で優雅に泳ぐ熱帯魚が目に入る。


水槽に手を滑らせれば、熱帯地方特有の生暖かい感覚と、固いガラス。
ふと肌とは違うそれに、少し目の奥が熱くなった。




「…骸も。こんな気持ちなのかな」




__光も音もない暗闇に独り。


体の自由を奪われ、ただそこにいるだけ。
必要最低限の命は保護されても、生かされているだけに過ぎない。


地上を夢見る深海魚のように、光を求め続けて。
水槽に捕らわれた美しい魚のように、自由を探して。


その先に何もないとわかっていても、
歪む世界で、自分の存在意義を探し続ける。


それは、酷く苦しく、残酷なこと。



でもそれは、私じゃ到底わからないような苦痛で。


なんて私は無力なんだろうと考えてばかり。


彼は、自分が囮になってまで仲間を助けるほど、すごく優しい人だから。


心配しないでください、なんて優しく笑うのだろうけど。



だからこそ、役に立てないことが、すごく悲しくなってくる。


もしかしたら、彼に私は必要ないんじゃないかとか…

もしかしたら、私は邪魔でしかないんじゃないか、とか。



考え始めたら、きりがない。




「…はは、私……やっぱり駄目だなぁ…」




水槽のガラスに手を添えたまま、自嘲的に笑う。
心なしか、熱帯魚まで悲しそうに見えて。
熱くなった目頭を紛らわせるように、また月を見上げた。




_____こんこん





「…?」




ふと、窓をノックする音がして、目を向けた。
テラスに、白いフクロウがとまっている。




「…あのこ、骸の…?」



テラスに出て、骸の匣アニマル、ムクロウを抱き上げる。




「どうしたの?」




すると、ムクロウは、くちばしに咥えているものを私に見せた。




「…私に?…手紙とか、かな…?」




綺麗に畳まれた手紙らしき紙切れを広げれば…
見慣れた字で書かれた、イタリア語。





「!…こ、れは…」




思わず、口に笑みが浮かび、顔が熱くなる。
素晴らしいお使いをしてくれたムクロウを、強く抱きしめて、月を見上げて。






「________Anche io」





“抱きしめられたままの梟の右目は”



“紅く、六の字が刻まれていて”















遠距離熱帯魚
   (Anche se separ, io ti amo.)
    (離れていても、僕は君を愛しています)

 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ