go west/in heaven

□extra
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*今日この日を穏やかに*

「ぎゃー! 何すんだよ、赤河童!?」

 ただいまー! と。玄関から悟空の声が聞こえたのはつい今し方。廊下を行く足音が聞こえたかと思えばいきなりの喚き声。

 八戒が台所から顔を出すと、居間の前で悟浄に片手で頭を押さえ込まれた悟空が、必死に手を伸ばして足掻いている。

「返せ!」

「別に食っちまおうってわけじゃねーよ。見るくらいいいだろーが?」

 へーえ、と。ニヤニヤしながら悟浄が眺めるのは、一方の手に持つ可愛らしい桃色の包み。

「プレゼントですか?」

「おう。小猿に季節外れの春がきたらしいぜ?」

「そんなんじゃねー!!」

 と言うわりに顔は真っ赤に染まっているのだから、なんとも可愛らしいものだ。

 ふふ、と笑って、八戒は台所を出た。黒光りする板張りの廊下を横切って、サッと悟浄の手から包みを奪う。

「あ」

「スレ切った大人の冷やかしは、悟空にはまだただの嫌がらせにしか感じられませんよ」

「スレ切ったって、お前ね……」

「おや。寺に寝起きしながら『呑む、打つ、買う』の三拍子が揃ってるあなたのどこがスレてないんです?」

「……………」

 にこにこと。美しい貌に微笑を浮かべながら、しかし真っ黒な瘴気を立ち上らせる八戒に、悟浄は無言で愛想笑いを返して悟空の頭を解放した。そのまま、ホールドアップする。

 降参の意を確認して、八戒は包みを悟空の手に乗せた。

「お菓子みたいですね」

「…おう。クラスの女子が、今日、家庭科の時間に作ったって。パウンドケーキ? って言ってた」

 赤い顔のまま目も合わせず、どこか不貞腐れた態なのは照れ隠しだろう。

「おー。小猿が色気づいちゃって」

「だから、そんなんじゃねーって言ってんだろ!」

「煩せぇぞ、てめえら」

 懲りない悟浄の冷やかしに、またも悟空が噛みついた時だ。寺務所と庫裡とを隔てる板戸が開くなり、玄奘がギロリと紫電の睨みを投げつけた。

 が。

「今日くれぇ大人しくしてやがれ」

 一言くれると書院へと消える。

「…え、なに。ハリセンないとか三蔵どっか悪いのか?」

「てか、今日はなんかあるのかよ?」

「新聞を読めば判りますけど。今日は祈りの日なんですよ」

 国際平和デー、世界の停戦と非暴力の日。

 どうやら今日の玄奘は、仏者として世界の片隅からこの理念に添うべく、相応しく振る舞うと決めたらしい。

「へー…」

 法衣の背中が消えた廊下を見つめて気の抜けた感嘆をもらす悟浄と悟空に小さく苦笑をこぼし、八戒は台所へと踵を返す。と、出入口で立ち止まる。

「僕も、今日くらいは心穏やかに過ごしたいですね」

 きょとんと振り返る二人に、八戒はにっこりと笑った。

「知ってました? 今日、僕の誕生日なんですよ?」

「あー!!」

 忘れてた!! と叫んで青くなる辺り、悟空はまだまだ子供らしいだろう。

「カバン置いて着替えてくる! そしたら料理手伝うからな!」

 慌てて部屋に駆け出す悟空を見送って、悟浄が呆れた態で溜め息を吐いた。

「いい加減お誕生日会って歳でもねぇだろ、お互い」

「まあ、確かにそうなんですけどね。でも、僕にとっても今日は祈りの日なので」

「あ?」

「ふふふ。さて、今日をばかりは殊勝な破戒僧にお茶でも淹れましょうかね」

 首を傾げる悪友に微笑ってみせて、八戒は台所へ踏み入れた。

 花喃を喪った日に悼むのをやめたのはいつだったろう。

 代わりに、ともに生まれた日を祝うと決めた。

 交わることなど許されるはずもない双児の姉。

 それでも愛を交わした日々は確かに幸福だった。

 かつてのこの日、二人が生まれ出でなければ得られなかったもの。

 喪った今、悲しみは常につきまとうが。

(花喃…君がいてくれたから、僕の人生は今とても豊かだ)

 だから。

(幸福の始まりの日を、僕は祝うよ)





END

2018/09/21
Happy birthday to 八戒!


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…そんなわけで、突発的に思いついた現パロSSです(汗)。

八戒、誕生日おめでとう!

大まかな設定としては、孤児院を持つどこぞの寺「金山寺」です。

四人ともその孤児院出身。


◆光明…先代住職。

◆玄奘…現住職。光明の養子。

◆悟空…玄奘の養子。高校生。

◆八戒…出戻りで(笑)庫裡を仕切ってるお手伝いさん。

◆悟浄…一応は外に住まいを持っている自称ホストだが、本当のところは判らない。孤児院に寄付をしてくれるので寺に入り浸っても追い出されずにいる。


38じゃないけど、結局は以心伝心な3と8…(笑)。

お楽しみ頂ければ幸いです。

 


 

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