リアルマーメイド
□リアルマーメイド
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俺がまだ5歳のときはじめて海へ行った。両親は海がすきで、でも5歳の俺には波が怖くて。両親が目を離した隙に逃げだした。はやく家に帰りたくて帰りたくて。でも、どこまで行っても帰れなくて。とうとう迷子になった僕は心細くて涙がでた。視界がじわっと歪んで景色をかすめた。
「どうしたの?泣いてるの?」
見ると、ちょうど同い年くらいの女の子がしゃがんで俺の顔をのぞきこんでいた。
「……。」
それでもなにも言わず、じっと黙っている俺を見、しばらく考えこんだあと、女の子はひらめいたように海へかけて行った。
パシャッ
びっくりした。突然すぎて呆気にとられる俺に女の子は優しく笑いかけた。
「わたしね、海だいすきなの。冷たくて、気持ちよくて、しょっぱいにおいがするの。」
そう言ってまた俺に海水をかけてすんっと海のにおいをかいだ。
「ね、気持ちいいでしょ?」
得意気に笑った女の子の笑顔が可愛くて、海にぬれた赤髪がキラキラ光ってて、俺は自然と笑みをこぼしたんだ。
「うん!」
それを見た女の子は嬉しそうにまた笑ってこう言った。
「よかった!やっと笑ってくれた。」
その後のことはよく覚えていないけど、あの女の子の笑顔と赤髪は今でも忘れない。
___多分、それが俺の初恋だった。
あれから11年、何人かの女の子と付き合ったけど、本当の意味で好きにはなれなかった。みんな、それなりに好きで。でも、心から恋して愛しくてたまらないと想えなくて。