短編

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海燕さんと出会ったのは何十年前だろうか。

入隊の日。

「おう、お前が新入隊員か?
思ったよりも若いな」


海燕さんの一言がこれだった。

この時の俺はどうでもいい、と思っていた。

他人に興味など持ったところでなんになると思っていた。


『苗字名前。』


とにかくこの会話に意味が無いことを把握すれば直様名乗り部屋を出て行こうとした。


どうでもよかったんだ、全てが。

この時、兎に角騒がしい日常から逃げたかった。


どうせ、理解などされないと理解している。

繕えば繕うほどそれは理解とは程遠く、
逆に曝け出せば俺の存在そのものを否定され「生かされている」ことを理解されないと。


理解している。


だから深く関わる必要もない、そう思った。

だがその瞬間頭には激痛。

俺はその場所にしゃがみこんでまで頭を押さえた。


ジンジン痛む頭を抑えながら海燕さんを見上げた瞬間胸倉を掴まれた。

「このクソガキ!人をなめてんじゃねえぞ!!」


『…は。』


ものすごい形相で迫られた俺は言葉を発することは愚か瞬きすらできなかった。


ーーーなんで怒られているのかだとか、

なんで、そのような必要があるのか。



どうせ、生かされているだけの自分に価値などないのだから。


俺は、どうせあんたたちをいつ敵に回すかわからない化物なのだから、



どうせいつか、殺されるんだから。


心のどこかで怯えて、敵視していつかは。



あんたたちは俺に刃を向けるんだろう?


そんな事するくらいなら。


ほうっておいてくれればいいのに。
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