好きだよ、なんて。

□帰ろう
1ページ/2ページ


『…海燕、さ…ん?』

「海燕殿?」

ルキアと俺は海燕さんの名前を呼ぶ。

異様な静けさと海燕さんの様子が。


「何じゃ、儂を呼んだか?小娘」


だけど、返答に答えたのは海燕さんではなく。

海燕さんの姿をした虚だった。


舌を垂れ流して瞼には模様、

そして変化した肌の色に、


ーーー乱れた霊力。




「か、海燕殿…?」

ルキアが再び海燕さんの名前を呼ぶ



「何故、そう何度も儂の名を呼ぶ?そんなに心配か小娘?そんなに儂が愛しいか小娘?」




ルキアを見れば愕然というよりは驚きと恐怖に取りつかれたような表情だった。



「そんなに儂が愛しくば…先ずお前から喰ろうてやろう!」


ルキアに襲いかかろうとする海燕さんを視界に入れれば俺はすかさず刀で受け止める


それに浮竹隊長も参戦する。


「…逃げろ朽木」


「…え…?」


「早くしろ!!死にたいのかっ!?」


ルキアは逃げるように駆け出す

(どうしてだ…どうしてこんなことに… )
「海燕殿…!!」

ルキアは必死に走っていった。


『辛い目に合わせそうだ』


俺は小さく呟くと斬魄刀の峰で海燕さんの体に向けて斬りかかる。


がそれはすかさずよけられた。


浮竹隊長も抜刀はするものの斬りかかりはしない。



「どうした…何故斬りかかって来ない!?わかっているぞ!!
此奴の中から儂だけを引きずり出す方法を考えておるのだろう!?無駄だぁああ!」

無駄という言葉に眉をしかめた。

理屈と言われれば理解はできる。

虚はご丁寧に説明をしてくれるようだ。

「人間の肉体に入り込んだのとは訳が違う。儂も霊体、此奴も霊体…霊体同士の融合だァ。
永劫解けることはない!!」

「これからじっくり一晩かけて儂が此奴の霊体を内から喰らい尽くすだけのことだ!!」


そう言った海燕さんの姿の虚を浮竹隊長と俺は躊躇なく切り裂いた


「ならば致し方ない。


海燕の体ごと…お前を斬ろう」



『…それしか方法がねぇなら仕方ねぇわ』



そう、仕方ない。


ただ、そう思い込もうとした。


ただ、心のどこかでは。


海燕さんを救う方法を考えながら。


「貴様!!正気か!?

斬るのか!!自分の部下を、上司を自分らの手で!?」


虚は驚いたように喚くが何がおかしいのか。


救えないなら、仕方がない。


『言っただろ、殺すと』

俺は冷静に言葉を紡ぐと切っ先を海燕さんの身体へと突きつける


虚だと分かっていたとしても



辛いものだ


「斬るさ、海燕の身体を、お前如きに喰らわせてやる訳にはいか…!!?」


このまま叩き込もうかと考えていると、浮竹隊長は咳き込んで吐血し膝をつく


『浮竹隊長!!』


「げほ…こんな時に…!!」

心配する俺と咳き込む隊長を見て

海燕さんの姿をした虚が笑みを深めた。



だけど虚は違う方向へと飛び始めた。


その先には

『ルキア…!』


「なっ…馬鹿野郎朽木っ!!どうして戻ってきた!!!」


俺は驚いて隊長を安静にさせつつ、一人その場に急ぐ。


この時の俺に、策などなかったんだ。

本当は。


きっとルキアも一緒だろう。


でも、目的は一緒だ。

”海燕さんを助けなければ”


「朽木、隼樹!殺せ!

そいつはもう海燕じゃないんだ!」


浮竹体調の言葉が地味に心に突き刺さる。


それでも、救いたいんだ。

俺たちは。


海燕さんという。



俺たちの温かい日溜まりのような



光を。




そして俺と、ルキアの目の前で


海燕さんは。



ルキアの斬魄刀に貫かれた。





俺とルキアの頬に血がついた


そして、雨が降り始める。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ