その他
□甘くて熱い痕
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ダングレストに夜の帳が訪れる頃。
バタバタと慌ただしい足音と共に仕事から帰ってきたタツナリのただならぬ様子に、タツナリの部屋で夕飯の仕度をしていたユーリは首を傾げる。
「タツ?」
「――ちょっと失礼します」
出迎えの声をかける間もなく、タツナリはおもむろにユーリの胸元に手をかけて襟元をくつろげる。
「お、おい?」
何て大胆な行動、と茶化す事も出来ないほどタツナリの表情は思いの他真剣で、胸元をさらけ出されたユーリは戸惑ったような声を漏らす。
声をかけるのも憚られるような真剣な眼差しで胸元をみつめていたタツナリだったが、一通り眺めたら満足したのかほっとした様子で表情を緩めて顔を上げる。
そこで彼はようやくユーリの唖然とした視線に気がついたのか、頬を赤く染めながら慌てて身を離す。
「す、すみません。不躾に」
「いや、別にいいんだけどよ」
慌てたあまりに今度は逆にいつもより閉じられてしまった襟元を引っ張って元に戻しながらユーリは訊ねる。
「何かあったのか」
訳がわからないとばかりに呟かれたユーリの真っ当な疑問に、タツナリは迷うような表情を浮かべたが隠しても無駄と思い正直に口を開く。
「今日、現場の人達に言われて気がついたんですけど…変な痕がついていて」
「…痕?」
鸚鵡返しに呟いたユーリに、タツナリは「これなんですけど」と言いながら自身の服の襟を引っ張って左の首筋を晒す。
無防備に曝け出された白い首筋。
傷跡の周辺に点々とついた薄い赤みに、ユーリは短く「あ」と声を出す。
ユーリにとっては身に覚えのあるそれは、いわゆるキスマークと言う奴で。
「別に痛くも痒くもないんですけど、今日になって急に出来ていたので気になって」
鏡なしでは見えていないのか、実際に指摘された場所とはやや異なるところを指でなぞりながら考え込むようにタツナリは呟く。
「昨日は…その。ユーリさんウチに泊まったじゃないですか。だからちょっと気になって」
男二人で寝るには十分とは言えない広さのベッドに身を寄せて眠りについた昨晩。
言いながら色々と何かを思い出したのか、タツナリは照れ隠しをするように頭を掻く。
「でもユーリさんはどうもなかったみたいで良かったです」
自身の体調に変化はなかったので気にならなかったが、ユーリも同じとは限らないと思ったのだろう。
爽やか、の一言に尽きる表情で自己完結しているタツナリの様子に、ユーリは唖然とした表情を浮かべながらも我に返る。
「タツ……お前、気がついてねぇの?」
「え?」
思いもよらないユーリの反応に、ぽかんとした表情を浮かべてタツナリはユーリを見返す。