Long
□Act.6
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頭上を仰ぐと知らないうちに口が開いてしまう人は割と多いと思う。
一昔前にその事を指摘されて気恥ずかしくなり、一時期は意識的に口を閉じるようにしていたものだが、顎の下辺りの皮膚が引っ張られるような感覚が苦手で結局止めてしまった。
そんなわけで、タツナリは唖然とした様子でぽかんと口を開き、視界を覆う巨大な生き物を眺めていた。
「私のお友達のバウルよ。仲良くしてね」
「はぁ……」
想像していたのと大分違う『ジュディスの友達』に、タツナリは目を奪われたまま生返事を返す。
「ずいぶん…大きな友達、ですね…」
驚いているタツナリの反応に満足したのか、横でユーリがクツクツと笑う。
「さすがのタツもこのでかさには驚いたろ」
「『さすがの』って…そりゃあ驚きますよ」
いつの間にか動じない性格とでも思われていたのか、ユーリの妙な過大評価にタツナリは頭を掻きながら困った表情になる。
「このバウルにくっついてる船、フィエルティア号に乗ってハルルに向かうんだ」
「え、確かにロープで繋がってるみたいですけど」
思わずフィエルティア号と頭上のバウルを交互に見比べる。
「…顎、外れないんですか?」
中規模の船を支える顎の強度はいかほどなのか、他人事ながらちょっと心配になる。
「よほどの重量物を積まない限り、大丈夫らしいわ」
「言ってる事、わかるんですか? ジュディスさん」
「ええ。彼は人語を理解するし、私は――まあ、ユーリとラピードみたいなものよ」
そう返され、そういえば最初はユーリとラピードの不自然な程の意思疎通に驚かされた事を思い出し、タツナリは納得する。
「なるほど。そういえば昔、何かの本で『綺麗な心の持ち主は動物と心を通じ合わせる事が出来る』って見た事があります。ユーリさんとジュディスさんもその類かもしれないですね」
「あら、そう言ってもらえるのは光栄ね」
「別にラピード以外の言葉を理解してるわけじゃねえよ」
ジュディスは涼しげに微笑み、ユーリは気恥ずかしそうにぶっきらぼうな口調で答える。
「ユーリ、照れてる?」
「うっせえ。ほら、そろそろ出発しねえと間に合わなくなるぞ」
覗き込むカロルの額にでこピンを入れ、ユーリはラピードを連れてそのままフィエルティア号の中に入っていった。
パチパチと瞬きをしながらその様子を見送り、タツナリは不思議そうに首を傾げる。
「カロル、誰かと会う約束でもあるの?」