Long

□Act.4
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「――退屈だわ」

「え?」

固定された虫眼鏡で昆虫の標本を覗きこんでいたタツナリを、本日の留守番兼見張り役のジュディスが頬杖をついたまま見ながら呟く。

カロルとユーリ、ラピードはそれぞれ依頼のため外出していて、帰りは二日後。

その間必然的にジュディスが“凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)”のアジトに残る事になり、本来自由気ままな時間を過ごす彼女にとっては、少々時間を持て余していた。

話しかけられたであろうタツナリは、顔を上げてパチパチと瞬きを何度かしてようやくジュディスに焦点を合わせる。

「え…と、俺…今日は出かける予定も動き回る予定もありませんし、ジュディスさん出かけてきても「それじゃあ見張りの意味がないじゃない」…ですよね」

言葉の途中で遮られて、困った顔をするタツナリの顔を眺めながら、ジュディスは面白そうにクスリと笑う。

「付き合ってくれないの?」

「何にです?」

「暇潰し」

「ひまつぶし、ですか。何かしたい事、ありますか?」

「いいえ、特に。何でも構わないわ」

「それ一番困るんですけど…」

唇を尖らせて考え込むタツナリを待ちながら、ジュディスは笑みを浮かべながら冷めかけた紅茶に手をつける。

「うーん…トランプくらいしか思いつかないです」

「それで構わないわ。ただの暇潰しなんだし」

「そうですか? えーっと、トランプ…確かこっちに――あった」

棚にしまい込んでいたトランプを取り出し、几帳面に枚数を数えながら席に戻る。

広げていた仕事道具を脇にどけるタツナリに、ジュディスはそういえば、と呟く。

「お仕事は大丈夫なの?」

「巻き込んでおいて今更何言ってるんですか。大丈夫ですよ、ちょうど目が疲れた所だったので」

休憩に付き合って下さい、とにこりと笑いながらタツナリは返してトランプを切り始める。

「ゲームは何にするの?」

「メジャーなヤツなら大体出来ますので、何でもいいですよ。でも二人だとあんまり種類なさそうですね…ルールを教えてもらえれば知らないのでも構いませんが」

「賭け事系でも構わないかしら?」

「どうぞ。ポーカーでもブラックジャックでもバカラでも。お付き合いしますよ」

「あら、意外と詳しいのね」

「ゲームは結構好きなんです。でも弱いんですよね…よければついでに手解きして頂ければ助かります」

笑いながら言い、タツナリは切ったトランプを配り始める。

「じゃあ、ポーカーからにしましょうか」

「ええ。――せっかくだから、ついでに賭けをする気はない?」

「賭け…ですか」

ジュディスからの持ち掛けに、タツナリは困った顔で「ガルドはあまり持ち合わせがないんですが…」と寂しい懐事情を吐露する。

「別にお金じゃなくてもいいわ。そうね、折角の暇潰しだし『負けた方が買った方とデートに付き合う』でどうかしら」

「デート、ですか? …俺は良いですけど、ジュディスさんはいいんですか?」

俺が勝ったらどうするんです、と意味を含めてタツナリが訊くが、ジュディスは不敵な笑みを浮かべたまま余裕の表情で返す。

「ええ。私、ギャンブルには強いもの。負けないわ」

「ええ…すごい自信ですね…勝てるかな」

意気込みで既に負けている気がする、とタツナリは心の片隅で思いながら伏せて並べたトランプに手を伸ばした。
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